出産を終えた母猫が目を覚ました。
産まれた五匹の猫と母猫は飼い主さんが持ってきたケージの中へ潤が入れた。
そして飼い主さんは言ったんだ。
「この子達の名前はもう決まってるんですよ。サトシ、ショウ、マサキ、カズナリ、ジュンなんです。大好きなアイドルグループから名前をもらったんですけどね?奇跡的にこの診療所の先生たちの名前と合致するところがあって。絶対5人揃って元気に産まれてくるって信じてたんですよ」
って。
確かにあの5人の名前ならこの子達も元気に産まれてくるはずだよ。
一瞬呼吸が浅くなった子もいたけど、こうして元気になっているんだ。
そして奇跡的にオレたちの名前とも同じなんだ。
大丈夫。
絶対この子達は元気に大きく育つはずだ。
何度も何度も頭を下げながら飼い主さんは帰って行った。
さて。
そろそろ診療所を片付けるか。
今日はいつもよりだいぶ帰りが遅くなりそうだななんて思っていると潤がオレの背中をポンと叩いて早く帰るように言ってくれた。
体調を崩してリハビリがストップしていることで雅紀がイライラを募らせてるんじゃないかと心配をしてくれたんだ。
「おう。翔ちゃんは早く帰りな」
「相葉ちゃんが心配してんだろ?翔やんはいいよ?」
「ただし安全運転だぞ。原チャを飛ばしすぎるなよ」
「ありがとう!!お先に失礼します!」
赤いヘルメットを片手に診療所を飛び出した。
そして赤信号で止まる度にイライラする気持ちを抑えながらマンションに原チャを走らせた。
「ただいま!雅紀!夕方になって出産があってさぁ」
なんて言いながら慌ただしく靴を脱ぎ捨ててリビングへ駆け込んだ。
まさき?
ま、さ、き?
どうした?
嫌な予感が的中した。
ここ数日感じていた胸騒ぎが的中したんだ。
リビングはぐちゃぐちゃに荒らされていた。
床にはオレたちの思い出と愛の証の黄色い花を入れた小さな小瓶が転がっていたんだ。
そして雅紀に贈ったはずの指輪もテーブルに置かれていた。白衣も聴診器も。
くっそ!!
どこだ、雅紀!!
絶対見つけ出してやる!
生まれ変わるずっとずっと前にお前がオレを支え続けてくれたように今度はオレがお前を支え続けてやる!
雅紀の指輪を左手の薬指に嵌め込んだオレは玄関を飛び出した。
左手の薬指にはオレの指輪と雅紀の指輪が重なって光っている。
この光を濁らせたりしねぇからな。
待ってろ、雅紀!
どこにも行くなよ!