「やべぇ。めっちゃ似合う。いいじゃん」
「だろ?つか、翔ちゃんが見立ててくれたスーツなんだもん。似合って当たり前ですぅー」
今日は雅紀の大学の入学式だ。
そして身に纏うスーツは姉ちゃんの出産の少し前に雅紀と2人で買いに行ったスーツだ。
本来なら雅紀の体型に合わせて仕立てようと思ってた。それを入学祝いにしたかったけど、事故に遭って入院やらリハビリやらで時間が取れなかったんだ。
それに仕立てるなら雅紀の足がしっかりしてからでもいい。なんなら成人式に間に合えばいい。成人のお祝いにすればいい。
ちゅ
リビングでキスをしてちょっとイチャッてると、約束の時間にインターホンが鳴った。
大学へ行くのにお母さんが雅紀を迎えに来たんだ。
雅紀の赤い車椅子を押してマンションのエントランスに出ると、お母さんはスーツな雅紀を見てふふって笑った。
「馬子にも衣装ね」
「馬子って言うなや」
「お母さん、雅紀をよろしくお願いします」
オレの言葉にお母さんは頷き、雅紀と並んで歩き出した。雅紀は自分で車椅子を漕いでいた。
キャンパスの中でも仲間たちに助けてもらいながら獣医学を学べるといいな。
2人の後ろ姿を見送ってから、赤いヘルメットを被りながらふと思った。
原チャ…。しばらく雅紀と一緒に乗れねぇんだよな。ヘルメットを5回ぶつけてのアイシテルノサインをしていた頃が懐かしく思えた。
どこかへ出かけるにもリハビリが完了するおよそ1年後までは2人で乗ることは不可能に近いし、遠出するにも不便なんだよな。
となると。
やっぱり車があった方が便利だよな。
原チャを買ったばかりだし、ましてや引越しもしたばかり。どこからその金を捻出するか…。
……行き着くところはたったひとつだけ。
食費の節約。
めちゃくちゃハードル高ぇけど、そこから手をつけるべきだよなぁ。
うーむ。
がんばろ。
オレ。
雅紀が向かった方角へ目を向けてから、オレは原チャをスタートさせた。
・
・
・
「は?翔が食費節約??」
「不器用の極みの翔ちゃんが!?」
「得意料理は麦茶の翔やんが??」
「うっせぇなぁ。そこから手をつけるしかねぇだろー」
「ま。彼氏に手取り足取り教えてもらえよ♡」
「手取り足取り…その後も手取り足取り?」
「馬鹿!智!!変なこと言ってんじゃねぇ!」
「手取り……足取り……////」
「こら!翔!なにをニヤニヤしてんだ!」
「翔ちゃん??どうした?」
「翔やんまでなに考えてんだ!!」
「はっ/////」
診療所ではオレの提案に対して斗真も智くんもニノも冷やかしつつも相談に乗ってくれていた。
そして。
「おはようございまーす!今日からよろしくお願いしまーーーす」
「潤!」
「まつゆん!」
「お、本家MJ登場!」
「じゅん!!!」
今日から坂の下動物病院に潤が戻ってきたんだ。