雅紀のお母さんの車に乗せてもらってオレと雅紀はマンションに戻ってきた。
親父とお袋、潤のお父さんとお母さんもそれぞれ家に帰った。
潤は姉ちゃんの面会時間終了ギリギリまで部屋にいたいからと言うので(言わなくても姉ちゃんに押し付けておくつもりだったけども)、そこで解散となった。
お母さんの車から降りて、雅紀が座る翔さんの赤い車椅子を押しながらふと思ったんだ。
「雅紀。入学式はお袋さんと行くのか?」
「ん。とりあえずはね。大学の入学式に出席する保護者なんてほとんどいないだろうけどさ。やっぱり暫くは車椅子生活となると母ちゃんも見ておきたい部分もあるしね」
そう。雅紀の入学式は明後日だった。
オレは診療所があるから同席できない分、学生課に伝えてはあるけれども車椅子での登校についてはお母さんも心配はあるはずだ。
「ちょっと散歩しよ?」
「ん、いいよ?」
マンションの前で車から降ろしてもらったけど、春の暖かな日差しの中、このまま家に帰るのはもったいない。
春になり夕暮れが遅くなった分、夕方はのんびりできるんだ。
「なんかいいな、こういうの」
「だな」
「いつかさ、オレたちが爺ちゃんになってもさ、こうして一緒に散歩しようぜ」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ!その時は歳をとった翔ちゃんの車椅子を俺が押してるかもしんねぇぞ」
「そうしてよ。それって雅紀がちゃんと歩いてるって事だろ?」
「もちろんだよ。その前にちゃんとリハビリして翔ちゃんをお姫様抱っこしてベッドに放り投げる目標も達成しないとだもんな」
「ん。約束だぞ」
「もちろん」
夕暮れの公園の端で車椅子の前にかがみ込んだオレは愛しい人の唇にキスをした。
何十年先もこうして一緒に同じ景色を見ていられるといいな。
いや、見るんだ。
2人で。
そしてそんなオレたちを恐らく虹の橋を先に渡るであろう蒼翔がしっぽをぶんぶん振りながら空から見てるんだろうな。
雅紀と蒼翔とオレと3人で暮らせる日が待ち遠しい。
その日のためにも今日を頑張ろう。
昨日に笑われないように。
明日、もっと笑えるように。