「ショーン!大丈夫か?」
「バンビ?」
「おい、櫻井?」
「…いや、大丈夫…ごめん。今日は先に帰る」
ザブザブと顔を洗っているオレの後ろから隆ちゃんとブッキーと滝沢が慌てて声をかけてきた。
大丈夫なワケがねぇ。
なんで家庭教師の仕事がある日に限ってこんなことになるんだ。
冷静な顔をして雅紀と向き合えるか。
いや、しっかりしろ、オレ。
こんなことで…雅紀を不安にさせてたまるか。
動揺を隠せない。
めちゃくちゃ心臓が痛い。
オレと雅紀が積み重ねてきたあの時間の中にはとんでもなく辛いことがたくさんあっただろう。
それを乗り越えてきたんだ。
こんなことで不安にさせてたまるか。
…こんなこと…。
そんな風に言いきれるか。
こんなことって言えるレベルか?
キャンパスから駆け出し、電車に飛び乗り、いつものように雅紀を高校の近くの公園まで迎えに行くまでの間、オレの頭の中はそんなことがグルグルと巡って止まらなかった。
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「おーい!しょーちゃーん!!今日さ、簡単なテストがあってさ…ッ!?」
「まさきっ!」
公園に駆け込んできた雅紀の元へダッシュしたオレは気づいたら雅紀を胸に抱きしめていた。
強く強く抱きしめていた。
離さない。
離せない。
オレは雅紀だけのもんだろ。
あの女とのことなんて無かった。
悪い夢を見ていただけだ。
そうだろ?
なのにどうしてこんなに動揺してんだ。
冷静になれ、オレ。
「翔ちゃん?どうした?何があった?」
「いや、なんでもねぇよ」
胸をグイグイ押しながら胸の中から顔を上げようとする雅紀。
ああ。
純粋だな。
この目を曇らせてたまるか。
眩しすぎるオレの太陽に吸い込まれるようにキスをした。
「翔ちゃん?変だよ?」
「何もねぇよ?いつものオレだろ?」
「……」
「雅紀?まーさーき?」
「まぁいいや。ねぇ、コレ見てよ」
「ん?」
くしゃくしゃに丸まっている紙を制服のケツポケットから出てきた雅紀はめっちゃドヤ顔でそれを広げて見せた。
数学のテスト。
小テスト。
85点。
「おお、すげー!めっちゃ頑張ってたもんな!解き方が分かると楽しいだろ?」
「うん!!なんかパズルのピースがハマっていくみたいでめっちゃ面白かった!!」
キラキラのオレの太陽を今度は優しく胸に閉じ込めた。