「なぁ、翔ちゃん翔ちゃん!」
「んぅ?」
「はい、あーんして」
「あーーーーー」
俺の言葉に何の疑問も持たずに口を開ける翔ちゃん。めっちゃ素直すぎる。いくら息子の俺が相手とはいえ、こんなにも人を素直に信用するとは。
今までよく変な詐欺とかに引っかかんなかったなと改めて思うけど、まぁ一回りも年上の雅紀がパートナーとして翔ちゃんの世話を焼きながら甘やかしてれば詐欺に引っかかるはずもねぇか。
「どお?」
「んまーーい♡なにこれ?雅紀さんが作ったの?それとも快翔?どっち??」
俺が翔ちゃんの口に放り込んだのは完成したてのトリュフチョコだ。
正確に言えば雅紀に言われるがままに俺が仕上げたから2人の合作ではあるな。
ニコニコモゴモゴしている翔ちゃんの口元に今度は雅紀がトリュフチョコを持っていくと、親鳥にごはんを貰うヒナ鳥のように翔ちゃんはまた口をあーーんってしてる。
そんなヒナ鳥を見てデレデレニヤニヤしながら親鳥がトリュフチョコをポンと入れている。
おいこら。俺はいったい何を見せつけられてんだ。
お前らの息子は中2だぞ。
普通なら思春期反抗期真っ只中だぞ。
そんな息子の前でいつまでもイチャりやがって。
見てるこっちが恥ずくなるのが普通だけど、あまりに日常茶飯事すぎる2人のイチャり加減に慣れてる俺もどうかしてるぜ。
「なぁ、翔ちゃん。イチャイチャが終わったらさ、約束通りに潤さんに渡すラッピングしてよ」
「んあ、ごめんごめん。やるやる」
俺の声にハッと我に返った翔ちゃんはひょこひょこ歩いて台所まで来た。
そして俺が悩みに悩んで選び抜いた淡い紫色のラッピング紙と少し濃いめの紫色のリボンを手に取って準備を始めた。
…。
……。
………。
「なぁ、翔ちゃん…。もうラッピングの紙がくしゃくしゃだぞ」
「快翔、待て。もう少しで出来そうなんだ」
…。
……。
………。
「もうちぎれそうだぜ?翔ちゃん、ごめん。お願い。もうやめて?」
「快翔…ごめんなぁ」
ふにゃふにゃのへにゃへにゃになった残念なラッピング紙を、見るに見兼ねた雅紀が翔ちゃんの手から取った。
そしてそのラッピング紙を一気にくしゃくしゃと丸めてシワシワにしてからそれを広げてテキパキと箱を包んだんだ。
翔ちゃんがふにゃふにゃのへにゃへにゃにした紙がいい感じのシワを作ったんだ。
そして見事に箱を包み込んだ。
「雅紀すげぇな!」
「雅紀さんありがとう!」
「最後のリボンは翔ちゃんがしてあげなよ」
手品かと思うくらい鮮やかな手さばきの雅紀を賞賛していると雅紀はくふくふ笑いながら翔ちゃんの頭をぽんとした。
で。
リボンを結ぶのはお手の物な翔ちゃんはめっちゃドヤ顔で俺にリボンをかけた箱を渡してくれた。
翔ちゃん。
そのドヤ顔は雅紀の力があったからこそだぞ。
そうツッコミを入れたくなったけど、両親にラッピングを手伝ってもらったというなんとも言えない立場の俺はそれをうやうやしく受け取った。
潤さん、これ、受け取ってくれるかな。