「ねぇ、潤?」
「どうした?」
「ちょっと触ってみて?」
「ん?なになに?」
お盆が過ぎ、秋の気配を少しずつ感じ始める頃、風呂上がりの俺をソファーから華が呼び止めた。
華の隣に座り、言われるがままにお腹に手を当てた。
モコモコ。
グルグル。
「分かる?」
「なぁ、これってもしかして?赤ちゃんが動いてるってことなのか?」
「そうよ。胎動って言うの。外からでも分かるくらいこの子は元気なのね?」
「だな。元気だなぁ。おーい。聞こえるか?お父さんだぞー。お母さんの事を守ってくれなー。頼むぞー」
「やっぱり『お父さん』と『お母さん』になるの?」
「華は『パパ』と『ママ』がいいか?」
「んー。どっちでもいい」
「だよな?だけどさ。ひとつだけ頼みがあるんだけど、俺のことは『お父さん』って呼ぶなよ?」
「もちろんよ。私だって『潤のお母さん』じゃないですからね」
「お互いのことは名前で呼ぼうな?」
ちゅ
くすくす笑う最愛の人を腕の中に閉じ込めた。
妊娠は順調に進んでいる。
お腹の赤ちゃんも問題なく成長している。
華が遠い昔の記憶と重ねた夢は挙式披露宴の後には見ていないと言っている。
本音を言えばもう産休に入って実家に帰って親父さんやお袋さん、MJと一緒に過ごす方が俺は安心なんだけど。
なにせ翔と同じくらいか、もしくはそれ以上に甘えたがりな華は仕事から帰ってきた俺にベッタリだ。
仕事もテキパキこなす華のこの甘え方は長女として頑張り続けてきたからこそであり、姉として翔を支え続けてきたからこその反動なんだろうな。
だけどこうして素直に甘えてくれることが俺は嬉しい。子どもが産まれたらまたいつもの頑張り屋な華になってしまうだろう。
だから2人だけで過ごせるこの時間だけは徹底的に華を甘やかしたい。
「はーな」
「ん?」
ちゅ
抱き寄せていた肩から手を滑らせて顎に指を添えると、華にキスをした。
ゆっくり華を寝かせながら抱きしめて何度も何度もキスをした。
「華。愛してる。可愛い子を2人で抱っこする日までこうして2人でくっついてような?」
「んふ。潤は甘えたがりね?」
ばーか。
それはこっちのセリフだよ。
だけど華に甘い俺は、華の言う通りに甘えてみせるんだ。