「雅紀?おーーい、雅紀?…まーさーき」
ダメだ。
完全にオチてる。
今日は家庭教師の日だって意気揚々と雅紀の部屋に来た。でもものの数分で開いた教科書を枕にして雅紀は寝落ちした。
新年度が始まって2週間が過ぎた。
オレの家庭教師バイトは週3日になった。
オレの講義とサークルと、雅紀の授業とバスケ部の時間を考慮してのことだ。
バスケ部は試合や遠征もあるから土日は隔週にした。まぁ部活の活動内容によって日程調整はいくらでも出来るしな…。
それはそうと。
滝沢からバスケ部新キャプテンという重圧を引き継いだ雅紀は相当なプレッシャーを抱えているんだろうな。
今までみたいに気軽に相談出来る先輩もいない雅紀はまた1人で抱え込んでしまっていないだろうか。
松本や風間もそばにいてくれるけど、優しすぎる雅紀のことだ。彼らに心配かけまいとしていないかもオレは危惧していたんだ。
なぁ、雅紀。
あんまり背負いすぎるなよ?
がむしゃらになればなるほど視野が狭くなってしまう所がお前の短所だ。
でもひっくり返せば何事にも正面からぶつかるのがお前の長所でもあるんだよな?
さら。
ミルクティー色の柔らかな前髪を避けておでこにキスをした。
「ん、しょ、ちゃ……」
「ん?」
「んぅ…すき…」
「ふは。寝言か……寝言じゃなくて起きた時に聞かせてよ?」
すやすやと眠る雅紀の寝顔を見ていたらオレも何か眠くなってきた…。
雅紀の顔の横におでこをくっつけてオレも目を閉じた。
少しだけ。
ほんの少しだけ……。
さら。
ふわ。
ちゅ。
「翔ちゃん……好きだよ。大好き……」
夢の中なのかな。
雅紀がオレの前髪をよけておでこにキスをくれていたような気がした。
もう少しだけこのままでいようかな。
コンコン!
コンコンコン!!
「雅紀?翔ちゃん?勉強の息抜きにラテとミルクティー入れたわよ?」
「へ?あ?」
「あ!はい!ありがとうございます!」
雅紀のおばさんの声に飛び起きたオレたちはおでこをコツンと合わせて照れ笑いをしたんだ。
ちょっと寝てたのはおばさんにバレバレだったけど、おばさんはそれに気づいてないフリをしてくれたんだ。