3年ぶりにドミトリーマスレエフ リサイタルがパリのPhilharmonieで開かれた。コロナの影響でちょうど2年前の今頃リサイタルの前日にマクロン大統領がロックダウンを敢行し リサイタルは中止。その後12月だったか、一度チケットは販売したもののコロナの勢いが止まらず中止。今回が3度目でロシアのウクライナ侵攻でプーチン大統領と近しい指揮者ゲルギエフのコンサートは中止、リサイタルの開催も危ぶまれた。ところが開催者の英断で個々のロシア人アーティストのコンサートは予定通り開催されることに。とは言え、モスクワーパリ間のフライトはキャンセルと聞き当日まで本当にリサイタルがあるのかどうか疑心暗鬼だったし、大学でも学科長がコロナ感染、修士の担当学生が二人隔離中と聞き自分もいつでも感染する可能性あり。でも全ては杞憂に終わった。
コンサートは最初から緊張感に溢れ、チャイコフスキーの「四季」で一気に様々な光景に連れていかれた。「四季」は一月ごとなので12曲あり、短調の曲では哀しみが深く時節柄ウクライナの破壊された街が頭に浮かんできた。長調の曲では反対に先週から見始めた「国民のしもべ」に出てくる緑あふれるウクライナが思い出された。40分に渡る長い曲なのに全然それは感じさせず、あっという間。この曲の後は休憩で初めてパンフレットを開けて「40分もあったのか」と気づいた。
スパルタカスのアダージョはYoutubeで聞きなれているけれど、生演奏は全く違う迫力というか、音の冴えがあって違う曲みたいだった。途中フライングで拍手が起こってしまったほど。オンラインヴィデオは生演奏の半分も伝わってない感じがした。
最後の曲はラフマニノフのソナタ2番。爆音でピアノが壊れそうな迫力で以前「火山の噴火」と書いた批評家が居たけれど、まさにその通りの演奏でそのままフィニッシュ。観客はピークで開放されて、ストレスでギチギチに締まっていた頭のネジが緩められたかのよう。音楽は何か精神的なものを開放する効果があるらしい。完成度が高いプログラムだった。
因みに会場だったCite de la musiqueは仏ポストモダン建築家クリスチャン・ド・ポルザンパルクの設計。彼はエッグブルーなどニュアンスがある色遣いが上手くて設計図も美しい。彼の設計した建物はポストモダン建築の中でも特に洗練されていて素敵だと思う。『のだめカンタービレ』に出てくるパリ音楽院(写真)も彼の設計。まさかこのコンサートで長年想像するだけだったホールに行けるとは。ホールは卵型平面で天井まで4,5階分あって高さ的には教会のそれに近いけれど反響板もなく音響効果はどうやって調節しているのかわからなかった。実は初めうっかり同じ仏建築家ジャン・ヌーベル設計の大ホールの方に行ってしまい、係員さんに間違いを指摘されて飛び上がった😱。ここまで来て間に合わなかったら・・・と走って行ったら開演30分前で早すぎでガラガラ。フランス人の観客はノンビリしているのかギリギリまで席は埋まらず。最終的にはほぼ満席だった。
本当は3年生のエッセイと2年生のプロポーザルを採点しなければならない時期なんだけど、それらを投げうってコンサートに来てしまった。彼らのエッセイよりコンサートの方が大切なので・・・すいません💦