【解説】保険業法等の一部を改正する法律について | なか2656のブログ

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■追記
つぎのブログ記事も併せてご参照いただけましたら幸いです。
・【改正保険業法】団体保険の加入勧奨への規制

・【解説】保険業法改正と銀行窓販・損保分野の意向把握義務・非公開金融情報等について

・保険業法改正と乗合代理店の比較推奨規制

・【解説】保険業法改正:金融庁の政令・監督指針案に関するパブリックコメントについて

・【解説】保険業法改正に伴う保険業法施行規則および監督指針の一部の改正について

・再びかんぽ生命保険のコンプライアンス統括部内でのパワハラを法的に考える/ブラック企業

1.はじめに
近年、大型の来店型保険ショップインターネットに特化した保険会社などの出現など、保険業界も大きく変化しています。また、消費者側においても、ただ義理と人情から保険会社の営業職員に勧められるがままに加入するのではなく、保険の情報を集めたポータルサイトなどを利用して、自ら主体的に情報を収集して保険商品を選ぼうとする人々が増えています。このように、近年、生損保の保険商品の販売形態が多様化するとともに、消費者のニーズも多様化しています。


このような状況のなかで、金融庁金審議会金融審議会「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」(座長 洲崎博史 京都大学大学院法学研究科教授)報告書平成25年6月に発表されました。そして、この報告書をもとに、「保険業法等の一部を改正する法律案」が平成26年3月に国会に提出され、5月に成立しました(以下、「改正法」とする)。この改正された保険業法は平成28年5月29日に施行される見通しです。

保険業法等の一部を改正する法律(平成26年3月14日提出、平成26年5月23日成立)|金融庁サイト
・概要(PDF)
・法律案要綱(PDF)
・新旧対照表(PDF)

現在の保険業法は平成8年に大きな法改正がなされましたが、今回の改正は、それに匹敵するものと言えるかもしれません。

この改正法は大まかに、①情報提供義務の明確化②意向把握義務の創設③保険代理店における保険募集人等の体制整備義務の創設④保険業法300条の「重要な事項」の明確化⑤保険募集人等に対する立入検査権等の強化などの規定の整備、にわかれます。

2.情報提供義務の明確化
(1)積極的な情報提供義務の規定(改正法294条1項)
従来の保険業法は300条1項1号が、保険契約の締結または保険募集にあたって保険契約者または被保険者に対して「保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げない行為」を禁止し、その義務違反に対して刑事罰を設けていました。

すなわち、重要な事項を告げないことを禁止する規定を設けることにより、保険会社側に情報提供の義務を履行するよう促してきました。これに対して、改正法は、積極的な情報提供義務の規定を置くこととした(改正法294条1項)。

現在においても、保険会社は保険契約の締結までに情報提供(とくにデメリットな情報の提供)のためにお客さまに「契約概要」「注意喚起情報」および「意向確認書」を交付してきましたが、より一層の情報提供とお客さまのニーズの把握に努めることを求めるものです。

(2)情報提供義務の主体
この改正法294条1項による情報提供義務の主体は、現行の保険業法300条1項と同様に、保険契約を締結し保険の引き受けを行う主体である。すなわち、保険募集人または保険仲立人もしくはその役員もしくは使用人とされています。

(3)情報提供義務の適用場面
現行の保険業法300条1項の保険募集は、主に個人のお客さまへの保険募集を想定して規定されており、企業などにおける団体定期保険などにおける、団体(=企業=団体定期保険における保険契約者)による団体構成員(=団体定期保険の被保険者など)への団体保険への加入の勧奨は保険募集には該当しないため、保険募集に関する保険業法上の規制の対象外とされてきました。

つまり、保険契約者による被保険者への加入の勧奨である以上は、保険契約はすでに発生しているので、保険契約の締結の媒介や代理にあたらないので、保険業法300条1項の適用の対象外であるとされてきたのです。

しかし、団体保険にもさまざまな種類の保険商品が存在します。団体の死亡保障に関しては、総合福祉団体定期保険のように、がっちりと企業の福利厚生のプランとして組み込まれた、被保険者同意をしっかり取り付ける事を前提としたうえでできるだけ全員加入とする保険商品(保険業界の人間はこれらの保険商品を後述の商品と対比して「Aグループ」と呼ぶこともあります。)がある一方で、「団体定期保険(Bグループ)」という、企業の団体保険ではありつつも、従業員があくまでも任意で加入する掛け捨ての割安な定期保険という保険商品も存在します。

団体の年金に関しても同様に、確定拠出年金法に基づく、「確定拠出年金(企業型)」という従業員とその家族の老後の保障のための全員加入の団体年金がある一方で、「拠出型企業年金保険」という、団体年金という形態をとりつつも、被保険者たる従業員が任意で加入し、保険料も自己負担してゆく、割安な企業型の年金保険も存在します(後者の企業年金は、愛称は日本生命は、「ハッピーライフ」、第一生命は「ドリーム年金」としています。)。

また、損害保険の分野では、クレジット団体傷害保険のように、クレジットカード保有者が傷害を負った場合などに保険金が支払われる団体保険があります。

これらの、団体定期保険(Bグループ)や拠出型企業年金保険、クレジット団体傷害保険などのような、団体としての性質が希薄な団体保険に対しては、団体(=保険契約者)から団体構成員(=被保険者)に対する適切な情報提供が期待できないとして、改正法保険募集人等による団体構成員に対する情報提供を義務付けることとしました。(具体的にどのような類型が義務付けられるかは、内閣府の保険業法施行令などで定められる予定です。)

つまり、改正法は、団体と団体構成員の関係性や団体の活動内容と保険による保障内容の関連性の度合いを勘案して、その性質から類型的に、団体から団体構成員に対して適切な情報提供が行われることが期待できるような場合においては、団体を通じて情報提供を行う従来の実務を尊重しつつ、うえであげたような団体定期保険(Bグループ)のような団体としての性質が希薄な保険商品については、団体から団体構成員への適切な情報提供が期待できないとして、保険募集人等による情報提供を義務付けることとしたのです。

■団体保険の加入勧奨についてはこちらもご参照ください。
・【改正保険業法】団体保険の加入勧奨への規制

(4)団体保険の定義
改正法294条1項は、団体の定義について、「団体又はその代表者を保険契約者とし、当該団体に所属する者を被保険者とする」と包括的な定義のしかたをしています。つまり、企業・法人のようなものだけでなく、うえであげたクレジットカードの加入者の集団や、弁護士会、教職員組合なども従来どおり含まれることになります。

(5)団体保険に「加入させるための行為」として想定される行為類型
改正法294条1項は、保険商品そのものの加入を勧誘する場合だけでなく、他の商品やサービスの購入に伴って自動的に保険商品が付帯する場合や、インターネットを介して保険に加入する場合等、保険そのものの加入の勧誘を前提としない場合であっても、適切な情報提供を行わせることによって、保険契約者や被保険者となろうとする者の保護を図るための必要があるとして、これらの行為について、情報提供義務の対象としています。

すなわち、銀行などで住宅ローンの契約を締結する際に付随的に加入することになる団体信用生命保険や、消費者金融で消費者がお金を借りる際に自動的に加入することとなる消費者団体信用生命保険が前者の類型となると思われます。

また、2008年にインターネット専業の生命保険会社として設立され業界に大きなインパクトを与えたライフネット生命や、あるいは、たとえば、「価格.com保険」などのウェブサイトのように、保険募集そのものをしているわけではないものの、保険商品の保険料などの比較ができて、消費者の保険加入の入り口となっているウェブサイトなどが後者の類型であると思われます。

(6)特定団体契約である団体保険契約の情報提供義務の適用関係について
これまで、変額保険、変額年金保険などの市場リスクのある保険商品は、保険業法第300条の2により金融商品取引法適合性の原則などに基づく規定が準用され、消費者保護が図られてきました。

しかし、今般、保険業法の改正法ができたことにより、特定保険契約である団体保険契約においては、金融商品取引法ではなく、改正法294条1項、300条1項1号の適用によって手当することになりました。

(7)情報提供義務の相手方
改正法294条1項の情報提供は、①個人保険契約の締結または保険募集の場面における、保険契約者および被保険者に対する情報提供、②団体保険契約の締結または保険募集の場面における、保険契約者に対する情報提供、③団体保険において団体から構成員(=被保険者になろうとする者)に対する適切な情報提供が期待できない場合の、被保険者に対する情報提供、の3類型を想定しています。

(8)情報提供すべき情報の具体的内容、提供の方法
具体的内容としては、現在、保険業法300条1項1号の「重要事項」および同100条の2およびそれらに関連する保険業法施行規則53条等に規定されている、「契約概要」および「注意喚起情報」のほか、自動車保険におけるロードサービス保険会社が特定の財・サービス(たとえば老人ホームの入居権や先進医療、葬儀など)を提供する提携先の事業者を顧客に紹介し、顧客が当該事業者からの財・サービスの購入を希望した場合に、保険金でなくその財・サービスを代えて支払うという「直接支払サービス」など、重要な付帯サービスに関する事項や比較推奨販売を行う場合の比較資料などが含まれるとされます。

(9)情報提供義務の規定(294条)と禁止規定(300条)との関係
情報提供義務の規定(294条)と禁止規定(300条)とは、一般的な規則と特別的な規則という関係にあるとされます。つまり、改正法294条1項の情報提供義務が課される場合のうち、刑罰法規の適用によりその履行が担保されるべきものついて、保険業法300条により禁止規定が課されるとされることになります。

(10)特定保険契約における情報提供義務
変額保険、変額年金保険など市場リスクのある保険商品である特定保険契約の締結またはその代理もしくは媒介に関する情報提供は、現行の保険業法においては、契約締結前交付書面の交付を規定する金融商品販売法37条の3の準用により行われています。今回の法改正においては、このあり方を維持し、特定保険契約に関わる情報提供は、改正法294条1項の情報提供義務から除外するとしています(改正法294条2項)。

3.意向把握義務の創設
(1)創設の趣旨

お客さまのニーズにマッチした保険商品を勧誘し、保険契約を締結することを担保する仕組みとして、現在、保険会社が保険契約の締結までにお客さまに「契約概要」「注意喚起情報」を交付して情報提供をした上で、「意向確認書」を交付し、お客さまから受領したという確認の印鑑をいただく仕組みがとられています(保険業法施行規則53条の7第1項、監督指針II -4-4-1-2(10))。

しかし、この制度では不十分であるとの指摘がなされてきたため、お客さまが自らの抱えるリスクを認識し、そのなかでどのようなリスクを保険でカバーするかを認識したうえで保険に加入する環境を整えることと、保険会社または保険募集人等に対してお客さまの意向を把握する義務等を規定する意味で、うえの「意向確認書」に追加して「意向把握義務」が創設されました(改正法294条の2)。

(2)意向把握義務の主体、適用場面、団体保険に加入する被保険者への勧奨等に関する取扱い
これらの点は、情報提供義務(改正法294条1項)と同様の考え方をとることとされます。

(3)意向把握義務の内容
この改正法294条の2の規定は、一般的義務規定(プリンシプル)としての性質を有するものであり、その上で、お客さまのニーズを把握するための具体的な手法については、保険商品の形態や、募集の形態に応じて、保険会社などの創意工夫にゆだねる取扱いとなっています。

(なおこれは余談ですが、うえの契約概要、注意喚起情報などは、当初は住友生命が「ご契約のしおり-定款・約款」や「保険設計書」にさらに追加してお客さまにデメリット情報をわかりやすく提供するために個社として自主的に交付することを始めた「ご契約のお申込みにあたって」を日本生命、第一生命などの各社も取り入れて実施するようになり、その流れを受けて、消費者保護にかなうものとして金融庁が法律に盛り込んだものです。)

意向把握義務の具体的内容としては、改正法294条の2は、①お客さまの意向を把握する義務②お客さまの意向に沿った保険契約の締結または保険契約への加入を提案する義務③お客さまの意向に沿った保険契約の内容を説明する義務④保険契約の締結または加入に際して、お客さまが自らの意向と締結または加入する保険契約の内容が合致していることを確認する機会を提供する義務、の4点を規定しています。



(4)意向把握義務の適用除外
意向把握義務を課さなくても保険契約者等の保護の観点から問題がない適応除外の場面については、内閣府令の保険業法施行令などで規定されることとなっています。この範囲は基本的には情報提供義務の適用除外と同一のものとなる予定です。

(5)特定保険契約に関する適用関係
今回の法改正により、特定保険契約の締結またはその代理もしくは媒介に対しても改正法294条の2の意向把握義務が適用されることになります。

現行の保険業法においては、特定保険契約に係わる意向確認書面は、100条の2、保険業法施行規則53条の7を根拠として作成・公布されています。また、特定保険契約の締結にあたっての適合性原則については、保険業法により準用されている金融商品取引法40条1号により担保されています。

しかし、改正法294条の2意向把握義務は、保険商品の全商品の募集形態に適用される一般的義務規定(プリンシプル)としての性質を有するものであることから、特定保険契約についても適用されると整理されたものです。

4.保険募集人・保険仲立人の体制整備義務
(1)背景

現行の保険業法は300条において、主に営業職員を名宛人として保険募集における禁止行為を規定することにより保険募集のあるべき姿を定め、また、100条の2において、保険会社を名宛人として「業務運営に関する措置」として、「的確な遂行その他の健全かつ適切な運営を確保するための措置」を講じなければならないと規定しています。そしてさらに、100条の2の2は、保険会社を名宛人として「顧客の利益の保護のための体制整備」を講じなければならないと規定しています。このように、保険業法は営業職員と保険会社との二つの方向に対して、保険募集のあるべき姿を規定していました。

しかし、近年、「ほけんの窓口」などに代表されるように、全国の駅前のデパートなどに店舗をかまえる、いわゆる「来店型保険ショップ」と呼ばれる乗合代理店が急速に発展して、その規模を増大させています。

大手の乗合代理店には、1000名を超える保険募集人を傘下におくところもあるようです。そのような乗合代理店は多くの保険会社から保険商品の委託を受け、代理店独自の判断で複数の保険会社の保険商品の比較資料を作成して勧誘を行ったりしています。これらは、保険会社が保険募集人を雇用し、その業務を把握し、管理・監督、指導を行うという、これまでの保険業法が想定していなかったスキームです。

このような近年の保険業界の情勢を鑑みて、改正保険業法は、保険会社に対してだけでなく、保険代理店を念頭に、保険募集人および保険仲立人に対しても、100条の2の2のような「顧客の利益のための体制整備」の義務を課すこととしました。具体的には、重要事項説明、顧客情報の適正な取扱、保険募集を委託する場合などの的確遂行を確保するための措置などを講じることとしています(改正法294条の3)。

(2)改正の内容
(a)体制整備義務の主体
改正法294条の3は、体制整備義務の主体を、保険募集人または保険仲立人と規定しています。
従来型の保険会社における営業職員や従業員のような保険募集人の形態においては、まずは保険会社が100条の2の2に基づく体制整備義務を履行し、所属する保険募集人がそれに従って業務を行っている限りは体制整備義務が履行されているものと解されます。
一方、保険会社や保険代理店とは別個独立に、保険募集人などが業務運営を行なっている場合は、その独立の程度に応じて、体制整備義務の求められるレベルが異なるものと考えられます。(「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」報告書18頁注50)。

(b)適用場面
改正法294条の3は、適用場面として、保険募集人および保険仲立人の、「保険募集の業務」と、「保険募集の業務に密接に関連する業務」のふたつを規定しています。この後者の具体例としては、①団体保険への加入勧奨に係る業務②保険募集のフランチャイズ業務(フランチャイザーの保険募集人の指導事業など)③比較サイト等の商品情報提供サービスのうち保険会社からの情報を転載するにとどまるものなどが想定されます。(報告書23頁)

(c)体制整備義務の内容
体制整備義務の具体的内容としては、①保険募集人等が顧客に対して適切に情報提供を行うことを確保するための重要事項説明②保険募集人等が保険募集の業務に関連して取得した顧客情報を適正に取り扱うこと③委託事業の的確な遂行を確保すること、の3つが保険募集人および保険仲立人共通の義務として規定されています。

(d)さらに、改正法294条の3第1項は、保険募集人のみに係る体制整備義務として、④乗合代理店の比較販売における比較情報の提供を確保するための体制整備義務⑤フランチャイズ業務の体制整備義務の2つを課しています。

(e)「乗合代理店の比較販売における比較情報の提供を確保するための体制整備義務」とは、来店型保険ショップなどの乗合代理店で、複数の保険会社の保険商品を比較する資料や情報をもとに保険商品の勧誘がなされていますが、その実務において、公正・中立な比較資料の提供を義務づけるものです。

「ほけんの窓口」などの来店型保険ショップ等の乗合代理店は、保険会社から独立した立場にある保険仲立人と異なり、複数の保険会社から委託を受けて保険商品の勧誘を行い、保険契約が成立すれば、それに応じた報酬の手数料を保険会社から受け取ることにより業務を運営しています。そのため、来店型保険ショップなどの乗合代理店が、「公正・中立」をブランドイメージにした時期もありましたが、報酬の手数料の高い保険会社の保険商品を積極的に勧誘するのは、営利企業としては当然のことでありますが、それがお客さまの保険商品への本当のニーズに合致しないおそれがありました。

(f)フランチャイズ業務の体制整備義務
保険代理店がフランチャイズ方式を採用している場合には、改正法294条の3第1項は、本部代理店(フランチャイザー)に対して、自ら行う保険募集に係る体制整備義務だけでなく、傘下の保険代理店(フランチャイジー)に対する教育・管理・指導についても、適切に行うための体制整備を求めることとしています。

5.保険業法300条1項1号の「重要な事項」の見直し
これまでの保険業法においては、300条1項1号の「重要な事項」は、その範囲が条文上必ずしも明確でなく、監督指針上の「契約概要」および「注意喚起情報」の内容すべてを包含する広範なものと解釈されてきました。

しかし、300条1項1号に違反する行為は刑事罰の対象とされていることを踏まえれば、本来は、その適用は限定的であるべきです。そのため、今回の法改正においては、この「重要な事項」を、保険契約の締結の意思に重大な影響を与えるものに限定する趣旨で、「保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項」としました。

また、うえの、2.(9)でもふれたとおり、情報提供義務の規定(294条1項)と禁止規定(300条1項)とは、一般的な規則と特別的な規則という関係にあるとされます。そのため、改正法294条1項の情報提供義務に反しない行為は300条1項にも反しないことになります。

6.保険募集人に対する帳簿書類の備付け・事業報告書の提出の義務付け
これまでの保険業法は、303条帳簿書類の備付を、304条事業報告書の提出保険仲立人に対して義務付けていましたが、保険募集人については規定していませんでした。これは、保険会社本体に対してそれらの義務を課してチェックを行っていれば、保険募集人へのチェックはしなくても大丈夫であろうという整理があったからでした。

しかし、4.(1)であげたような、来店型保険ショップなどの乗合型保険代理店などの急速な発展を受けて、このような保険代理店に対してもチェックをかけるべく、改正法303条、同304条は保険募集人に対しても帳簿書類の備付けと事業報告書の提出を義務付けることとしました。

具体的には、改正法303条・304条は、「特定保険募集人(その規模が大きいものとして内閣府令で定めるもの)」に対してこれらの義務を課すとしており、この具体的内容は、乗合数(受託保険会社等の数)を基本的な基準としつつ、収入手数料の金額等を考慮して内閣府令で定められるものとされています。

7.保険募集人および保険仲立人に対する立入検査権など
(1)改正の背景
来店型保険ショップ等の保険代理店などの保険募集人に対しても体制整備義務、保険募集に係わる業務の適切性確保を義務付けることにともない、保険募集人自身に対してだけでなく、保険募集人の取引先や業務委託先に対しても報告徴求や立入検査などが規定されることとなりました(改正法305条2項、3項)。

(2)改正の内容
具体的には、6.でふれた、特定保険募集人の取引先および業務委託先が報告徴求や立入検査の対象となります。

つまり、①特定保険募集人の所属保険会社等、②保険相談やファイナンシャルプランナーの紹介業務等、保険募集に密接に関連するが保険募集そのものには該当しない業務を特定保険募集人から委託または再委託(再々委託等を含む)を受けることなく行う者、③特定保険募集人から保険募集の再委託を受けた保険募集人、④③以外の保険募集に密接に関連する業務の委託または再委託(再々委託等を含む)を受けた者、の4類型が対象となります。

②の類型の具体例は、インターネットのウェブサイトで、さまざまな保険会社の保険商品の情報を扱うポータルサイトである「価格.COM保険」や、これもインターネット上でいわゆる「保険マッチングサイト」と呼ばれる保険のマッチング業務を行っている事業者が想定されています。

④の類型の具体例は、保険募集に関する情報システムの開発・運用業務の委託または再委託等を受けた者が想定されています。

8.保険仲立人に関する規制緩和
現行の保険業法においては、保険契約者等の保護の観点から、保険仲立人またはその役員、使用人が長期にわたる保険契約(5年以上)であって、保険契約者または被保険者が個人であるものの締結の媒介を行おうとするときは、内閣総理大臣の認可を受ける必要がありました(附則119条)。

今般の法改正においては、保険契約者等の保護に配慮しつつ、保険仲立人の業務の活性化を促進するように、この規制が廃止されることとなりました。

9.委託型使用人の適正化
今回の保険業法改正にあわせて、金融庁は、「保険募集に関する再委託の禁止について」および「代理店使用人の適正化について報告徴求命令」を2014年1月16日に発出しました。

これは、保険代理店と雇用契約を持たない現行の委託型募集人制度禁止する趣旨のものです。

かつては、保険代理店の保険募集人は保険代理店との雇用契約が必要とされてきましたが、2000年の規制緩和により、直接雇用関係がない者についても実質的に保険募集人とすることが認められたという経緯があります。

このような雇用関係のない、委託型募集人は、その教育・管理・指導はそれぞれの保険代理店に任せられていました。そのため、各保険代理店によって勤務の携帯や教育・管理体制などが異なっており、コンプライアンスの面から問題がありました。

そのため、2014年1月16日に、金融庁はさきの通知を発出し、今後は、委託型募集人は「雇用」「派遣」「出向」のいずれかの勤務形態にしなければならないとしました。そしてそれ以外は、「本人が個人代理店となる」または、「新たな法人代理店を設立しその役員または使用人となる」こととしました。そして、この適正化の期限を2015年3月末までとして、同年4月30日までに金融庁に報告することとしています。

■参考文献
・細田浩史「保険業法等の一部を改正する法律の概要」『金融法務事情』2014年8月10日号124頁
・足立格「保険募集規制に係る最近の保険業法および保険監督指針の改正動向」『NBL』2014年5月15日号48頁
・石井秀樹「保険業法の改正が販売現場に与える影響と今後の動向を予測する」『Journal of Financial Planning日本版FPジャーナル』2014年7月号6頁

■追記
生損保業界については、こちらもご参照ください。
・日本郵政・かんぽ生命保険コンプライアンス統括部がパワハラ/ブラック企業

・再びかんぽ生命保険のコンプライアンス統括部内でのパワハラを法的に考える/ブラック企業

・ゆうちょ銀行・かんぽ生命の上限額増加を自民が提言/郵政民営化法・ブラック企業

・日本生命が中小企業退職金共済制度で作成契約を行なっていたことが発覚/不祥事件

・東京海上日動のJR山手線の新卒採用の宣伝広告がすごい/保険と射幸契約


銀行等代理店のための改正保険業法ハンドブック



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