今回は,個人再生手続きの中の給与所得者等再生における可処分所得要件と履行可能性の考え方について
1 小規模個人再生と給与所得者等再生
(1) 給与所得者等再生について
個人再生手続きには,小規模個人再生手と給与所得者等再生とがあります。 小規模個人再生では,再生債権者による書面決議を経る必要があります(民事再生法230条)。他方で,給与所得者等再生では,再生債権者の決議は必要とはされていません。
そのため,書面決議が不要である給与所得者等再生を選択する方が,再生手続きが認められる可能性が高いといえます。
(2) 給与所得者等再生は安定した収入が見込まれる場合にしか利用できません
給与所得者等再生は,安定した収入が得られる見込みのある者しか申し立てができません(民事再生法239条1項)。 また,可処分所得の2年分以上の金額を返済総額とする再生計画であることという要件が課せられています(民事再生法241条2項7号)。これを可処分所得要件といいます。
安定した収入があり,可処分所得を前提にして弁済計画を立てた場合には,債権者に拒否権を与える必要はないと考えられているわけです。
2 可処分所得要件について
このように,給与所得者等再生においては,可処分所得を基に弁済計画を立てることになります。
この可処分所得は,簡単にいえば,
可処分所得=収入―(税金+保険料+最低生活費)
という計算式により算出します。
3 親族に収入がある場合の可処分所得の算出方法
(1) 被扶養者が収入を得ている場合
可処分所得を算定する際に,同居の親族に収入があった場合,その親族を被扶養者として考えることができるのでしょうか。
同居の親族の年間の収入が103万円以下である場合には,民事再生法の最低生活費を考える際の被扶養者とすることができるとされています。 したがって,再生債務者に被扶養者(年収103万円以下)がいる場合には,その被扶養者の生活費も考慮するので,可処分所得が少なくなるということになります。
(2) 被扶養者が別居の親族の場合
可処分所得を算出する際に,別居の親族を被扶養者とすることも可能です。民事再生法上,被扶養者が再生債務者と同居していることは要件とされていないからです。
4 可処分所得の算出にあたって同居の親族の収入は考慮しない
同居の親族が収入を得ている場合であっても,可処分所得を算出するにあたって,同居の親族の収入を再生債務者の収入と合算して計算する必要はありません。 再生手続きは,あくまで再生債務者個人の収入を基礎として行うものであるからです。
5 同居の親族の収入を債務の履行可能性おいて考慮することは可能
4とは異なり,再生債務者の履行可能性を判断するにあたっては,同居の親族の収入を考慮することは可能です。実際に再生債務者が再生計画を履行できるかどうかは生活状況等から実質的に判断されるものだからです。
この場合には,同居の親族の収入を示す源泉徴収票や,その収入が再生債務者の家計に組み込まれていたことを示す家計簿等により,同居の親族が再生債務者の債務の返済に協力できることを示すことが必要となります。