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第2回目離婚判例勉強会
先日,第2回目の離婚判例勉強会を行いました。
第2回目は【慰謝料】について検討しました。
ワイドニュースで芸能人の離婚報道の時などによく聞くおなじみのワードだと思いますが,実は慰謝料は2種類に分類できます。
♦離婚原因の慰謝料
例えば暴力・不貞・悪意の遺棄などを配偶者からされて離婚する場合に,その有責行為から生じた精神的苦痛に対する慰謝料のことです。(有責について詳しくは前回の第1回目をご確認ください。)
♦離婚自体の慰謝料
離婚をするということは,人によって異なりますが,多かれ少なかれ精神的苦痛を伴います。世間体で気に病むこともありますし,独り身になり今後の生活への不安もあると思います。そういった離婚をすること自体の精神的苦痛に対する慰謝料のことです。
2つに分類はできますが,もっとも明確には区別されず,一般的にはまとめていわゆる「慰謝料」として扱うことが実務上多いです。
この慰謝料に関して「いくらもらえますか。」というご質問をよくいただきます。しかし,離婚に至るまでの経緯は十人十色で,客観的な基準を見いだすことはなかなか難しいというのが現実です。
裁判例をみても客観的な基準はありませんが,おおまかな傾向というものはあります。
- ①有責性が高いほど高い
- ②精神的苦痛や肉体的苦痛が激しいほど高い
- ③婚姻期間が長く,年齢が高いほど高い
- ④未成年のこどもがいる方がいない場合よりも高い
- ⑤有責配偶者に財産があり社会的地位が高いほど高い
- ⑥有責配偶者でない配偶者に財産がなければないほど高い
- ⑦財産分与でたくさん財産をもらうと慰謝料が低い
裁判例を見ると,上記のような傾向がある場合は1000万を超える判決がでていることがありますが,一般的には500万を超えることはまれなようです。
配偶者への慰謝料請求ですが,請求を行う理由として「配偶者の不貞」が多くあげられます。
しかし,不貞というのは配偶者が一人だけで行えるものではなく,必ず不貞相手が存在します。
ですので,その不貞相手にも慰謝料請求ができます。どちらか一方にだけ請求してもいいですし、配偶者と不貞相手両方に慰謝料請求することも可能です。
(ただし、2人に対して請求する場合でも、慰謝料の総額金額が増えるわけではありません。不貞という1つの行為がいくらの慰謝料を発生させるかという問題ですので、1人に慰謝料請求しても、両方に請求しても慰謝料の額は変わらないのでご注意を。)
配偶者ではなく不貞相手に請求することが多く,不貞相手への慰謝料請求の相談は当事務所でも数多くいただいております。不貞があれば必ず慰謝料がもらえると思っている方もいらっしゃいますが,残念ながらもらえないケースも存在します。
例えば
- 既婚者であることに気付けない状態だった(クラブで知り合いワンナイトの関係である等)
- 強姦・脅迫された
- 時効完了(不貞相手を特定(住所・氏名)できてから3年経過)
このようなときは残念ながら認められません。
この他にももらえないケースの1つとして,重要な最高裁判例があります。
それは今回の勉強会で取り扱った不貞行為の相手方の不法行為責任を否定したケース(最高裁 平成8年3月26日判決)です。
ケースの概要は以下の通りです。(確定した判決日を基準に修正しています)
25年前
♦入籍(1女1男)。互いの性格・金銭の考え方の相違等が原因になって次第に夫婦仲が悪くなる。
16年前
♦夫が転職したところ,残業で深夜の帰宅が増え,妻は不安を募らせるようになった。
14年前
♦夫が再び転職し,その後同会社の社長になった。夫は会社の負債のために自宅に抵当権を設定したが,そのことに対して妻は怒り夫婦関係は非常に悪化した。
10年前
♦夫が別居を目的とした夫婦関係調整調停を申立てたが,妻が調停に出頭せず,夫は申立てを取り下げた。
9年前の3月
♦夫と妻が別居開始
9年前の春ごろから夏ごろ
♦夫と不貞相手が知り合う。不貞相手は,夫からは,妻と離婚することになっていると聞き,また,夫が妻と別居したため,夫の言葉を信じ,同年夏頃まで肉体関係を持つようになった
9年前の10月
♦夫と不貞相手が同居開始
7年前
♦不貞相手は夫との間の子を出産し,夫はその子を認知した。
妻か不貞相手に対して慰謝料請求を行いましたが,結果的に認められませんでした。
裁判所の言い分として,「夫が妻との婚姻関係が既に破綻していたときは、不法行為責任を負わない」ということがあげられていました。
そもそも論として,夫婦には「婚姻共同生活の平和の維持」や「法的保護に値する利益」が認められています。つまり,この権利や利益を侵害されて初めて不法行為として慰謝料請求ができるのですが,既に破綻していた場合には、このような権利があるとはいえないのです。
このケースでは不貞相手が夫と肉体関係を持った当時は、夫と妻との婚姻関係が既に破綻していたという事情がありますので,
不貞相手が妻の権利を違法に侵害したとはいえない=慰謝料を払う必要がない
という判断をされることになります。
反対に,この判例のケースのように不貞慰謝料を請求された場合に,「婚姻関係が破綻していた」と聞かされて不貞してしまったら,いかに「破綻していたかを客観的に主張できるか」が重要となります。
「どのように破綻であったかを証明すればいいの?」
というのが気になるポイントだと思います。
裁判例では,別居の事実が重視されているものが多いですが,別居という形式的な事実だけで婚姻関係が破綻したという判断はされません。少なくともその別居に合理的な理由(例えば,介護で実家に帰って行った,単身赴任していたなど)があれば婚姻関係が破綻したとは認められないことが多いです。
1つ参考になる裁判例として東京地判平成22年9月9日があります。
その中で,破綻の定義については
♦離婚できる裁判の1つの基準である『婚姻を継続し難い重大な事情がある』と評価できるくらい,婚姻関係が完全に復元の見込みがない状況であることが重要
♦破綻になったかどうかについては,婚姻の期間,夫婦に不和が生じた期間,夫婦双方の婚姻関係を継続する意思の有無及びその強さ,夫婦の関係修復への努力の有無やその期間等の事情を総合して判断する
と述べられています。
また,夫婦それぞれが破綻していると認識できていたかも重要です。
東京地判平成14年7月19日では,
♦性交渉がないことだけで婚姻関係が破綻とはいえない
♦有責配偶者が一方的に離婚の意思をもっているだけでは,破綻とはいえない
と述べられています。
性行為がないことだけを取りあげても破綻とは言えませんし,「離婚だ!」と告げているからといって,一方的に離婚意思を伝えるだけでは破綻しているとはいえないということです。
その他,「破綻」を認定した裁判例の中には,離婚に向けた協議がすでにされていた点を重視しているものもあります。
不貞の慰謝料の相談で,その背景に婚姻関係破綻があった場合,弁護士としては,
♦婚姻関係が完全に修復の見込みのない状況に至っているかどうか
♦別居の事実を中心に,破綻の一般的基準で示された事情を多く拾って立証できるかどうか
が重要になります。
大変参考になった勉強会でした。
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