(前回のつづき)
それでは、現在の俳優陣たちに登場してもらおう。
こないだ、放送終了したTBSドラマ「アンチヒーロー」。
殺人犯を無罪にしてしまうほどの腕前を持つ元・検察官あがりの弁護士、明墨正樹を長谷川博己さんが演じた。だいたいにおいて、良い役が多い長谷川さんが、今回は不気味に何を考えているのかわからないダークな役。あらゆる手段を使って、有罪なはずの事件を無罪にしてしまう、まさにアンチヒーローの役。
第1回で、新人弁護士・赤峰柊斗(北村匠海)に自分のやり方を説いているシーン。
殺人犯を無罪にしようとしているのではと不信感を抱いている赤峰に、有罪判決が出るまでは弁護人は被告を保護する立場、判決が出ていないのに殺人犯と決めつけるのなら、いますぐ弁護士をやめたほうがいいと説く明墨。
赤峰(左)と明墨(右)
さらに・・・
明墨「まあ、そもそも本当に罪を犯したかどうかは、われわれ弁護士には関係ないことだ」
赤峰「でも罪を犯したかどうかわからなかったら、どっちにしろ、依頼人を助けることができない・・・」
赤峰の言葉をさえぎって、すごみのある低い声で・・・
すごみのある言葉に驚く赤峰
あ然としている赤峰をいちべつする明墨
明墨「証拠を用意して有罪を立証するのが検察の仕事。」
「・・・だとしたら、我々弁護士は、その検察の出してくる証拠をただ・・・」
デスクにあった紙をつかみ、
不気味にニヤリと笑う明墨
鬼気せまる気迫に言葉も出ない赤峰
くちゃくちゃの紙がポトリと2人のパラリーガルの机に落ちた。2人の後ろに立っているのが明墨
どういうつもりなんだ? と目で追う
このシーンについて、長谷川さんはあるトーク番組で裏話を披露した。もともとの台本には紙については何もなく、ただセリフだけだった。そこへ、長谷川さんは、同時に紙を握りつぶせば迫力ある場面が撮れるでしょうと、自らアイデアを出したのだそうだ。
おかげで、すごみのある緊迫したシーンができた。さらに、長谷川さんは握りつぶして言ったあと、ちょっと笑って見せた。
このちょっとした演技の付け加えで、いったい明墨と言う男は何を考えてるのか、不気味に感じられて印象が増した。
こういったきめ細かな演技があると、ドラマに深みが出るのだ。表現力とはこういうものなのではなかろうか?
俳優さん自らアイデアを出し合いながら、いかに迫力のある説得力あるシーンをつくっていくか・・・、スタッフキャスト一丸となって考えている好作品だ
つづく