(前回のつづき)
監督のもうひとつの役割は敗戦の責任を担うということだ。帰国後の記者会見での監督発言は報道されなかったが、オーダー、選手の起用法には一定の覚悟と責任をもって取り組まれたはずだ。
決勝戦、中国との試合、オーダーは次の順だった。勝敗結果も
第1試合 張本美和 孫穎莎(そんえいさ)〇
第2試合 〇 早田ひな 陳夢(ちんむ)
第3試合 〇 平野美宇 王芸迪(おうげいてき)
第4試合 早田ひな 孫穎莎〇
第5試合 張本美和 陳夢〇
1-5、2-4組 1-4、2ー5組
なんと準決勝と同じだった。(準決勝のオーダーは前回の記事にあります)
ここに大きな疑問が残る。なぜ15歳の張本美和に第1試合第5試合を任せたのか。
中国相手に、5ゲームまでもつれることは誰でも予想できた。さもなくば0-3で完敗するかだ。
なぜ、もっともプレッシャーのかかる第5試合に美和を持っていったのか・・・。
普通、考えるオーダーは次だ。
第1試合 平野美宇 早田ひな
第2試合 早田ひな 平野美宇
第3試合 張本美和 張本美和
第4試合 早田ひな 早田ひな
第5試合 平野美宇 平野美宇
1-5、2-4組の場合 1-4、2ー5組の場合
上のように、美和は第3試合だけ。第5試合は美宇ちゃんが担う、これが合理的な案だった。今大会の美宇ちゃんは絶好調、中国相手に1勝したのだから2勝する可能性、十分あった。
実際の1-5、2-4組を取ったのなら、早田は陳夢に実際に勝ったのだから2人で3勝、優勝となっていた。まあ、あくまで結果論だが。
すなわち、監督のオーダーミスが一番の敗因だったのだ。
なぜ、あのオーダーだったのか。
当初、私は、美和が今大会絶好調で才能が開花、エース級を相手に1ゲームも落とさず勝ち抜く快挙を続けていた。まさにミラクル美和だった。それで中国相手でもミラクルを起こせるんじゃないかと期待してしまった、普通はエースが担う第1試合と第5試合を美和に浅はかにも任せてしまった・・・そう解釈していた。
が、どうやら、そうでないらしい。この記事を書く直前、ネット上に帰国後のインタビューが載っていたのを見つけて読んだ。美宇ちゃんにどうして決勝戦まで第3試合だったのかという問いに答えていた。
それは美宇ちゃんへの思いやりからだった。過酷な代表レースが終わったばかりで心身ともに疲れ果てているのに、すぐに世界卓球、Tリーグ、事前合宿、練習と続く美宇ちゃんのコンディションを心配した。世界卓球中も癖のある相手との試合が続いた。これからは美和とのダブルスの練習も控えている。
それで、少しでも楽にと第3試合固定を貫いたのだ。
一方、美和にはこれからの選手として、少しでも多く試合を経験させたかった。エースが担うプレッシャーもいまから味わせてやりたかったようだ。
つまり、考え抜いてのオーダーだった。目標はあくまでパリオリンピックの金メダルだった。世界卓球は通過点に過ぎないのだ。結果的に優勝を逃したが、先を見据えている監督としては、それはしかたないと割り切ったものだったのだ。
前回ラストに書いた「監督の思惑と誤算」は撤回する。
あと半年、パリオリンピックまで渡辺武弘監督も爆走していく