ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典33(19人目)

 

~イワン・カラマーゾフ(公判当日以降)~

 

【イワン一覧】

 

~イワン・カラマーゾフ(序&1日目11時半)~

~イワン・カラマーゾフ(1日目17時~)~

~イワン・カラマーゾフ(2日目14時半~)~

~イワン・カラマーゾフ(大審問官)~

~イワン・カラマーゾフ(2日目の夕方以降)~

~イワン・カラマーゾフ(8日目)~

~イワン・カラマーゾフ(2週間後)~

~イワン・カラマーゾフ(公判前日1)~

~イワン・カラマーゾフ(公判前日2)~

~イワン・カラマーゾフ(公判前日3)~

~イワン・カラマーゾフ(公判当日以降)~

 

 

 公判当日

 グルーシェニカのあとに証言台に立つ。死んだ人間の顔を思わせる病的な表情で、ぼんやりと裁判長の顔を眺めていた。ふいにイワンの顔がゆっくりとほころび、裁判長の話が終わると、いきなりげらげら笑いだした。尋問が始まると、気乗りしない様子で、嫌悪感すら浮かべながら証言をおこなった。

 

 イワン:「あいつが殺し、わたしが殺しをそそのかしたんです」

 ふいに、「裁判長殿、下がらせてださい、体調がひどくすぐれなくて」と法廷から出て行こうとしたが、四歩ほど歩いたところで、何かをふと思い直して立ち止まり、もとの席に戻った。そして、「この金が原因で親父は殺されたんです」と、証拠品を並べた机に、スメルジャコフから受け取った金を置いた。 「スメルジャコフから受け取ったんですよ。犯人からです。昨日です。ぼくは、やつが首を吊る直前に立ち寄りましてね。親父を殺したのはあの男で、兄じゃありません。あいつが殺し、わたしが殺しをそそのかしたんです‥‥‥親父の死を望まない人間なんて、どこにもいるもんですか」と言った。

 

 イワン:「静かにしろ、おれはくるってなんかいない、たんに人殺しなだけだ!」

 アリョーシャは立ち上がり、「兄は幻覚症なんです!」と叫んだ。カテリーナは衝動的に立ち上がり、恐怖に金縛りになったままイワンを見つめていた。ドミートリーも立ち上がり、得体のしれない歪んだ笑みを浮かべながらイワンを見つめた。フェチュコーヴィチも、イワンの話に耳をそばだてていた。「静かにしろ、おれはくるってなんかいない、たんに人殺しなだけだ!」。そして、悪魔の話をして、取り押さえようとする廷吏を、すさまじい勢いで床にたたきつけ、支離滅裂な言葉でわめき続けた。【⇒第12編:誤審5:突然の破局】

 

 イッポリート:「青年の心にいまも真実のひたむきな力が生きていることを見てとりました」

  イッポリートによる論告。イワンはヨーロッパ文明がもたらした退廃の象徴である。「すばらしい教養をそなえた現代青年で、知能も相当高い」が、「なにものをも信じておらず、その人生においてあまりに多くのものを否定し、却下してきました」。スメルジャコフは、イワン・カラマーゾフの傍若無人な考え方に慄然とした。「あの方のお考えによりますと、この世では、どんなことでも許されるのだそうでして、これから先、禁じられるべきものは何もないと、いつもそう教わっておりました」。さらに、スメルジャコフは、「息子」たちのうちのだれが、大旦那さまに一番性格が似ているかと申しますと、それはイワン様でございます!」と言った。わたしは、この若者の行く手に破滅あるのみだと言うつもりはない。今日、この法廷で、青年の心にいまも真実のひたむきな力が生きていることを見てとりました。【⇒第12編:誤審6:検事による論告。性格論】

 

 その後

 「いいか、イワンはほかのだれよりも抜きんでるぞ。」「そうさ、良くなるよ。でも、あいつは死ぬと信じ込んでいる。あいつも不幸がつきないやつだなあ……byドミートリー」。

 イワンは、だいぶん前からカテリーナと付き合っていたが、カテリーナがドミートリーを今も愛していると信じていた(自分を愛してくれていると信じられなかった)。ドミートリーを嫉妬しながらも、裁判で兄を破滅させることをしなかった。イワンは病気で寝たまま、何も語ることなく、物語は幕を閉じた。【エピローグ:2 一瞬、嘘が真実になった】