――オセローは、1ページを超す長ゼリフが幾つもあります。実際、どのようにして覚えていらっしゃるんですか。
「マッチ棒を50本ぐらい山積みにしておいて、一つセリフを言っては1本移す。全部マッチ棒が移動するまで、言い続けるんですよ。これ、尊敬していた文学座の先輩、加藤武さんが昔、やっていたのをまねしたんです。今はマッチ棒ではなく、別のものを使っていますが……。次にセリフとセリフを続けて言えるよう、自分のセリフの部分は間をあける形で、別の人たちのセリフを読み、ICレコーダーに録音する」
「出番が少なくても、同じことをやっています。そうやって覚えている間に、今度は物語が体に入ってくるんですよ。覚える一歩先に行くと、『これはどういう気分で言っているのか』ということが大事になり、『これは前のシーンのあのことを言っているんじゃないか』とか、練習している中で発見が増えてくる。セリフが多ければ多いほど、作品に対する気づきは多いと思います」
“おれはシーザーを愛さぬのではなく、ローマを愛したのだ〟高潔な勇将ブルータスは、自らの政治の理想に忠実であろうとして、ローマの専制君主シーザーを元老院大広間で刺殺する。民衆はブルータスに拍手を送ったが、アントニーの民衆を巧みに誘導するブルータス大弾劾演説により形勢は逆転し、ブルータスはローマを追放される……。簡潔、明皙な文体で、脈々と現代に生き続ける政治悲劇。