ざこねぐら -3ページ目

ざこねぐら

ゆっくり枯れていく

 

アユリちゃんへの最初の気持ち、憧れと妬みでした。

 

何でもできるアユリちゃん。

みんなに好かれるアユリちゃん。

いっつも自信たっぷりなアユリちゃん。

 

すごいなーって温かい気持ちと、なんであの子ばっかりって冷たい気持ちと。

 

そうやって

いつの間にアユリちゃんのことばかり考えるようになっていました。

 

昨日のアユリちゃん、今日のアユリちゃん、明日のアユリちゃん。

 

気付かれないように、目はいつもアユリちゃんを追っていました。

それが、恋心だったのか、親愛の気持ちだったのか、その時はわかりませんでした

 

 

ある日、お爺さんに出会いました。

お爺さんは私のxxxにxxxを入れながら、それは痛くなかったけど気持ち悪くて。

口から色んなものを吐き出しながら目玉がぐるぐる回って、全部が収まったときに、

お爺さんはいなくなってて。

ただの悪い夢だった、幻覚だったと思い込もうにも、お爺さんの言っていたことが、

頭から離れませんでした - 声は思い出せません -。

 

『愛しいものを食べなさい。食べたものを慈しみなさい』

 

だから私はアユリちゃんを食べてしまいました。

とてもとても美味しくて、こんなところまでアユリちゃんは完璧なんだって嬉しくなりました。

食道も胃も脳も子宮も燃えるように熱くなって、それがとても気持ちが良くて。

私は夢中で食べました、食べました。

 

”燃える恋”とか、”嫉妬に燃える”とか言うのだから、この熱さはきっと恋なのだ。と。

 

食べ終わってから気付いてしまったんです。

残酷です。

食べ終わってしまってから、熱さはすぐに収まりました。

だって、もう食べるものがなかったから。

 

嗚呼、熱さが恋しい。

また、あの燃えるような快感を!

 

『愛しいものを、食べなさい。』

 

そうだ、また、愛しい人を、作ればいいんだ。

愛しくなったら、食べればいいんだ。

 

食べるために、恋をしよう。

 

 

 

それから、私は、たくさん食べました。

 

男も女も子供も大人も関係なく、好きになった人はみんなみんな食べました。

 

 

 

でも、やっぱり、アユリちゃんが一番美味しかった。

 

 

 

アユリちゃんが、好きだった。

 

 

 

 

 

探索者たちに、掃除用具や文房具や、何でもかんでもに貫かれて、

 

ようやくヨツハは動かなくなった。

 

 

次第に、探索者たちの視界は歪み、気が付けば、

 

蜘蛛の巣が張巡らされた、もはや廃墟という他ない校舎の中で立ち尽くしていた。

 

ヨツハだったものが最後に居た場所には、枯れた四葉のクローバーが積み重なっていた。

 

 

それはどこからか吹き込む風で飛び散り、カサカサと擦れ合う音が、

 

まるで虫の足音のように、探索者たちの耳に残った。

 

 

 

 

そこは狭い部屋でした。
これまでに探索してきた部屋は、小さな校舎の教室なりに、生徒を収容できる程度の
広さがあり、狭いと感じることはなかったけれど、この最後の部屋だけは、
ただただ、狭く、圧迫感を感じました。
 
暗さに慣れた目は、その狭さの正体をすぐに見つけました、見つけてしまいました。
 
無数の”肉”と”骨”が、投棄されたゴミ屑のように教室中に積み重なっており、
鼻を抉る様な腐臭と、赤黒く不気味な鈍い光沢を放つ血痕。
 
言うならば、その部屋は死を押し詰めた釜であり、地獄があるならきっとこんな場所だろうと、
そんなことを考えてしまうほどに、凄惨な場所でした。
 
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「まぁ、半ば予想はしてたけど、その上をいかれたね……。これだけ殺したのか」
 
探索者の中には悲鳴をあげる者こそいなかったが、みな一様に息を呑み、
口元を押さえ、あるいはブツブツと独り言を繰り返し一時的な発狂に達する者もいた。
 
「さて、それじゃあ解決編といきましょうか、ヨツハさん」
 
私は、振り返って、お調子者と手を繋ぐ少女、ヨツハと向き合った。
俯いており、表情は読み取れず、少し身を震わせているようだ。
 
「大人しい性格だったヨツハと、誰しもの憧れだったアユリという2人の女の子が、
 この学校に通っていた。
 アユリはヨツハに恋心を抱いた。そして、ヨツハに告白をしようとした。
 ここまでは、探索で見つかった”アユリの日記”で、確定情報のはずだ」
 
ふと、ヨツハと手を繋ぐお調子者の様子を見ると、
「あーやらかしたわこれー」という顔で汗をかいている、馬鹿は1回死ねば治るかもな。
 
「しかし、”他の生徒の日記”から察するに、アユリという女の子は、
 その告白の日以降、行方不明になっている。」
 
「最初は、ヨツハちゃん、君の正体がアユリちゃんで、何らかの理由で
 ヨツハと名乗っているんだと思っていた。
 ”おかしくなっていた”のはアユリちゃんの方だと思ってたから」
 
「でも、君は本物のヨツハちゃんだね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「そんで、君がアユリちゃん、殺したんでしょ」
 
 
 
 
 
 
 

乾いた、何かを擦るような音が聞こえました。

虫の、足音のような、カサカサと、カサカサカサカサと。

 

 

 

 

 

ヨツハが顔を上げると同時に。

ヨツハの口から、巨大な虫の脚が飛び出しました。

巨大な脚は計4本。口を裂いて2本、両目があった場所から、それぞれ1本。

 

なまじ人間の、少女の身体が残っていることが、

余計にソレの不気味さを際立たせていました。

 

人間の頭部だけがグロテスクに蜘蛛に寄生された、形容しがたい怪談の現出でした。

 

「ここが最後の部屋……っていうか、行き止まりのどん詰まりの終着点さね」

 

校舎3階、廊下の一番奥の教室の扉の前で、探索者たちは息を整えていた。

閉じ込められた校舎は、本来の世界の校舎と作りは同じようだった。

空間的な軸がずらされているよりも、時間的な軸がずらされているのかもしれない。

その証拠に、新しさこそないものの、放置され老朽化したような、廃墟染みた

空気は、探索中にはあまり感じなかった。

 

有益な情報は、それなりに拾い上げてきた。

おそらく、ヨツハと名乗った私の後ろに控えている少女は、この学校に在学していた。

 

敵か、味方かは、分からない。

 

薮蛇は避けたほうがよい、と私以外に気付いた人もいるだろうが、誰も彼女を問いただす

ようなことはしなかった。

 

「準備がよければ、入りましょうか。もう完全にラスボス戦って感じですけど」

 

探索者の1人が、全員を見渡し、それぞれの状態を確認する。

体力の消耗こそあるものの、全員正気を保ち、応急処置も済ませ、

”一戦交える”準備はいいようだった。

 

「あの……すみません」

 

ヨツハが弱弱しく呟く。

見れば、自分の身体を抱くようにして、身を震わせている。

 

「なんだか、とても、怖くて……誰か、手を繋いでくださいませんか?」

 

てを、つなぐ?

敵か味方か、判別つかないやつと?

逃げ場のない場所で?

 

コイツハナニヲイッテイルンダ?

 

「はいはい!ヨツハちゃーん!俺でよければ繋ぐよー!むしろ繋いでー!」

 

探索者の1人のお調子者が、ヨツハの手をとってニコニコしている。

ヨツハは始め面食らったものの、安心したように、満足そうに微笑みを浮かべた。

 

「……準備、できたな。いくぞ」

 

ため息をついてから、扉に手をかけた。

願わくば、お調子者に幸あれ。