そこは白い部屋だった。
壁と床と天井の境目が分からなくなるような、綺麗で白い部屋だった。
とてもとても美しいと思ったし、きっと私は死んでここはあの世だと思った。
目の前には本棚があった。
美しい白の中に無粋な、古びた木製の本棚だ。
無作為に適当な本を1つとって、開いてみる。
白紙であった。
きっとそこには何か書かれているのだろうと思うけれど、
いやそこに何か書かれていることは知っているはずだけれど、
確かにその本はどのページも白紙であった。
「返事をして」
耳元で女のようなか細い声が聞こえたような気がした。
ひどく耳障りで頭痛を覚えた。
「お願いします、返事をしてください。お願いします」
誰が返事をしてやるものかと、違う本を手にとって、パラパラと流し読んだ。
やはり白紙であった。
「このままでは私は死んでしまうのです。お願いです。返事をしてください」
死んでしまえばいいのだ、お前など。
死んでしまえばいいのだ。
誰かも分からぬ声に、仇のように念を送った。
そうだ死んでしまえ、ここは私の部屋だ、私の部屋だ。
次第に声は遠のいた。
気がつけば本棚を全て読み終えていた。
どれもこれも、白紙であった。