傀儡の夢⑦ | ざこねぐら

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ゆっくり枯れていく

そこは狭い部屋でした。
これまでに探索してきた部屋は、小さな校舎の教室なりに、生徒を収容できる程度の
広さがあり、狭いと感じることはなかったけれど、この最後の部屋だけは、
ただただ、狭く、圧迫感を感じました。
 
暗さに慣れた目は、その狭さの正体をすぐに見つけました、見つけてしまいました。
 
無数の”肉”と”骨”が、投棄されたゴミ屑のように教室中に積み重なっており、
鼻を抉る様な腐臭と、赤黒く不気味な鈍い光沢を放つ血痕。
 
言うならば、その部屋は死を押し詰めた釜であり、地獄があるならきっとこんな場所だろうと、
そんなことを考えてしまうほどに、凄惨な場所でした。
 
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「まぁ、半ば予想はしてたけど、その上をいかれたね……。これだけ殺したのか」
 
探索者の中には悲鳴をあげる者こそいなかったが、みな一様に息を呑み、
口元を押さえ、あるいはブツブツと独り言を繰り返し一時的な発狂に達する者もいた。
 
「さて、それじゃあ解決編といきましょうか、ヨツハさん」
 
私は、振り返って、お調子者と手を繋ぐ少女、ヨツハと向き合った。
俯いており、表情は読み取れず、少し身を震わせているようだ。
 
「大人しい性格だったヨツハと、誰しもの憧れだったアユリという2人の女の子が、
 この学校に通っていた。
 アユリはヨツハに恋心を抱いた。そして、ヨツハに告白をしようとした。
 ここまでは、探索で見つかった”アユリの日記”で、確定情報のはずだ」
 
ふと、ヨツハと手を繋ぐお調子者の様子を見ると、
「あーやらかしたわこれー」という顔で汗をかいている、馬鹿は1回死ねば治るかもな。
 
「しかし、”他の生徒の日記”から察するに、アユリという女の子は、
 その告白の日以降、行方不明になっている。」
 
「最初は、ヨツハちゃん、君の正体がアユリちゃんで、何らかの理由で
 ヨツハと名乗っているんだと思っていた。
 ”おかしくなっていた”のはアユリちゃんの方だと思ってたから」
 
「でも、君は本物のヨツハちゃんだね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「そんで、君がアユリちゃん、殺したんでしょ」
 
 
 
 
 
 
 

乾いた、何かを擦るような音が聞こえました。

虫の、足音のような、カサカサと、カサカサカサカサと。

 

 

 

 

 

ヨツハが顔を上げると同時に。

ヨツハの口から、巨大な虫の脚が飛び出しました。

巨大な脚は計4本。口を裂いて2本、両目があった場所から、それぞれ1本。

 

なまじ人間の、少女の身体が残っていることが、

余計にソレの不気味さを際立たせていました。

 

人間の頭部だけがグロテスクに蜘蛛に寄生された、形容しがたい怪談の現出でした。