涅槃図、上部、雲に乗って駆けつけているのは、釈迦の母である摩耶夫人(まやぶにん)。
摩耶夫人はおしゃか様を産んで7日目に亡くなり、その後は摩耶夫人の妹が母代わりなります。
摩耶夫人は長年、子供ができず悩んでいましたが、あるとき白い象が胎内に入る夢を見ます。
この象には6本の牙を持っていたそうですが、これにより懐妊を知り、出産のため里帰りの旅をします。
その途中のルンビニで休憩。
アショーカの花が美しいな、と手を伸ばしたところ、右脇からうまれるのです。
こちらはトーハクの摩耶夫人像
これは、当時のインドでは、階級によって生まれる場所が違うと言われていた為で、
おしゃか様の両親は上から二番目のクシャトリヤ階級。
一番上のバラモン(司祭)は頭から生まれ、
二番目のクシャトリヤ(王族)は脇から
三番目のヴァイシャ(平民)は腹から
四番目のシュードラ(奴隷)は足の裏から生まれる
というバラモン教のいわれがあったため。
釈迦は王族に生まれたということを意味してるのですね。
さて、そんな摩耶夫人は亡くなってから忉利天(とうりてん)という天界に生まれ変わります。
そこから息子が死にかけていることを知らせにきたのは、釈迦十大弟子のひとり、アヌルッダ。
この人、釈迦の説法中に居眠りをしてしまったことを叱られ、もう二度としませんと誓います。
その後、誓いを守ることをやり過ぎて視力を失うまでになるのですね。
ですがそのおかげで心の眼が開き、真理を観れるようになるのです。
このアヌルッダに導かれ、摩耶夫人が持ってきたのは病を治す妙薬。
やっとやっと生まれた息子に愛をそそぐ暇もなく、わずか7日で死に別れたわけですから、
それはそれは大変な思いを抱えているのですよ。
息子よ、死なないでおくれ、と薬の入った包みを投げるのですが、思い叶わず、沙羅の木に引っかかってしまい、届きません。
おしゃか様は母の投げた薬を飲む事もなく、息を引き取るのです。
こんにちお医者さんが薬を処方することを投薬と言いますが、
その言葉はこの故事から来ているそう。
また、この包みはおしゃか様の持ち物だという説もあります。
両方を表しているのではないかと思いますが、
おしゃか様は、托鉢に使う「器」ひとつと、着替えの「衣」一枚ほどの荷物しか持っていなかったとお聞きします。
あと、錫杖(しゃくじょう)ですね。
てっぺんに金属の輪が付いた杖で、シャンシャンと鳴り、獣よけの意味もあります。
断捨離という言葉が一般化してきて久しいですが、器と着物と杖、というのがおしゃか様の究極に絞った持ち物なわけです。