今回ご紹介するのは、真梨幸子さんの『さっちゃんは、なぜんだのか?』です。

 

おひとりさま、時代ガチャ、毒親、貧困、男尊女卑社会

 

ひとりのホームレスの死をきっかけにいろんな社会問題の闇が暴かれていく、けれどもちょっとユーモラスな一冊。個人的には真梨作品の中でも好きな話だったので、ぜひ皆さんとも共有したいです!さっそくですが、以下のレビューをご覧ください。
 

 

 

<あらすじ>

ホームレスの女性が、公園で殺害されているのが発見された。犯人も動機も不明。彼女はなぜ、殺されたのか? 事件に興味をもったフリーターの女性が、不思議な縁で、被害者の人生に潜む嘘をひとつひとつ暴き、真実に近づいていく。巧妙な罠と高速で展開するストーリーに、いつの間にか目が離せなくなる。そして、ある瞬間に気づく。#さっちゃんはあなただったかもしれない #さっちゃんはわたしだったかもしれないテキストを入力

 

 

”さっちゃん”こと公賀沙知という五十七歳の女性が公園で何者かに殺害されます。沙知はホームレスをしており、生前にはよく公園近くのカフェに出入りしていたようです。カフェ店員によると、沙知はいつもノートパソコンを持って現れるため、はじめはライターだと思っていたとのこと。身なりもホームレスのようには見えなく、カフェ近くの広告代理店で働く社員とも親し気に話していたことから、マスコミ側の人間に違いないと思っていたのです。しかし、実際、沙知はホームレスとして殺されてしまったわけで・・。あんなに華やかそうに見える彼女の人生に何があったのか?なぜホームレスになったのか?このことに一番衝撃を受けたのは、何度もカフェで沙知を見かけていた関口祐子という店員でした。

 

祐子と沙知には不思議な縁があります。実は、現在祐子が住んでいるアパートの部屋は、なんと過去に沙知が住んでいた部屋だったのです。それだけでなく、カフェで働く学生バイトの子からも「ホームレスを殺したのは年配女性だから、祐子さんも気をつけてくださいね」と言われたり(ちなみに祐子は四十歳)、現在バイトと派遣で食いつなぎ、いつホームレスになるかわからない現状含め、祐子と沙知には何かと共通点がありました。

 

さっちゃんはわたしだったかもしれない

 

そう、祐子はいつ沙知の立場になってもおかしくない、おひとりさまの貧困女性。沙知はバブル世代の犠牲者であり、祐子は氷河期世代の犠牲者。私たちは時代の犠牲者なのではないか。気づくと祐子は運命的に沙知の関係者に吸い寄せられるかたちで、公賀沙知の人生をたどることになっていきます。

 

面白いのが、この事件に関わる人たちのほとんどが、バブル世代や氷河期世代なんですね。バブル崩壊後に借金まみれになったり、会社が倒産したり、氷河期で就職できなかったり・・・。しかも元大手企業に勤めていたエリートたちが転落してしまったパターンが多く、二度とやり直しさせてくれない社会の厳しさを目の当たりにします。

 

行く先々で勝手に記者に間違われ、相手から自動的に沙知の情報を入手してしまう祐子は、沙知に悲しい過去があること知ってしまいます。その一方で、知れば知るほど公賀沙知の人物像がよくわからなくなっていくのです。ただ、最後に登場する沙知の友人からの証言が一番ホンモノの沙知に近いのかなぁと思いました。

 

そしてお決まりのどんでん返しですが、今回も凄いです。祐子が事件を追って、最終的に犯人にたどり着くパターンかと思いきや、そうではありません。後半に新キャラが登場し、事件の視点を沙知ではなく、加害者に設定して謎を紐解いていこうとします。そうすると、出てくるわ、出てくるわ、新事実が!そして人の印象とは本当に見る側によってどうとでもとれて、アテにならないものだなと実感します。

 

後味としては、真面目に生きてきた人たちが今も”きちん”と生きているのに、世間からは職種が変わっただけで底辺として扱われているのが辛かったです。

 

結局、関口祐子は将来の不安に耐えきれず、自ら死を選んでしまいます。沙知を知るほど、自分と重ねてしまい、生きるのが怖くなってしまったのです。そう思うと、祐子もまた「社会」に殺されたのでしょう。もう命を消すことでしか不安やお金から解放されなかったのです。

 

ここまでくると、この部屋は完璧に呪われています。というか、このアパートは他の部屋も事故物件で、隣人に至ってはクレーマーで少しの物音にも「死ね」とブチ切れてきます。しかし、祐子の次にこの部屋に住むことになった住人は祐子の姪。くわばら、くわばら。最後の最後にはゾッとするサプライズつきなのでお楽しみに。

 

人生調子がいいときに、どう過ごしていたかって大事なんですね。若いときの行いが年老いて返ってくる・・。

 

真面目に、けれども器用に生きたいですね。

 

 

以上、『さっちゃんは、なぜ死んだのか?』のレビューでした!

 

 

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