呪われし1999年7月生まれ――
東京郊外で発見された15人の遺体。胸に抱かれた預言書には、「人類滅亡の章」にしおりが挟まれていた。当初は集団自殺とみられたが、他殺の可能性が浮上。被害者には、1999年7月生まれのオカルト好きが集まる“世紀末五銃士”のメンバーも含まれていた。事件から一年半、残る“世紀末五銃士”のメンバーが次々と惨禍にみまわれ……。終末への新たなる警告! 戦慄のオカルトミステリー。

 

今回ご紹介するのは、真梨幸子さんの『ノストラダムス・エイジ』です。

 

真梨さんの本は、いつも一気読みしないと流れを見失ってしまうので、メモを取りながら注意深く読むのが鉄則。ただ、今回は登場人物が少な目なので比較的すんなりと読めました。

 

 

 

 予知夢を見る女

 

1973年に刊行された、五島勉の『ノストラダムスの大予言』は、日本中にオカルトブームを引き起こしました。当時、兄の影響でオカルト好きになった小学五年生の秋本友里子は、予言を信じ、後に「ノストラダムス・エイジ」というブログを開設します。実は友里子には予知夢を見る能力があり、ブログに「コロナパンデミックで東京オリンピックが延期になる」という予言をアップしたところ、一部のオカルトマニアから預言者と崇められ、有名人になります。

 

そんな有名ブログに目をつけたのが、オカルト系ユーチューバーの”恐児”でした。恐児は自身の動画で「ノストラダムス・エイジ」を紹介し、ブログ主とメールでやり取りしていることを明かします。この時点で既にブログが閉鎖されていたこともあり、恐児の動画は大変な注目を浴びることに。当然、恐児のもとにはブログ主に連絡を取りたいという人が集まります。

 

その中で恐児が興味を持ったのが、大手出版社からの「ノストラダムス・エイジを書籍化したい」という誘いでした。さっそく恐児は出版社にブログ主を紹介するのですが、ようやく本が完成し刊行日も決定したそのとき、編集者のもとに「私が本物のブログ主です」という女性からの連絡が来ます。そう、このとき連絡をくれた女性こそが秋本友里子。すなわち本物の「ノストラダムス・エイジ」の運営者だったのです。

 

では、恐児が出版社に紹介したブログ主とは誰だったのでしょう。なぜ恐児はそんな嘘をついたのでしょう。そこは直接本書を読んでいただきたと思います。

 

 

 

 世紀末五銃士

 

恐児の動画に注目をしたのは出版社だけではありません。恐児の動画には熱心なオカルトオタクたちも興味津々でした。特に目立ったのは、恐児の動画でコメントをしてくれる常連、笹野千奈美(キャリー)、渡辺翔太(ゾンビ)、横峯快斗(イエヤス)、鮎川公平(ジェイソン)、井岡佳那(ゴンベエ)の五人です。彼らは自らを「世紀末五銃士」と名乗り、そこに自称ホラー芸人のマトリックスを加え時々オフ会をするようになっていました。

 

ある日、世紀末五銃士は、メンバーのゴンベエが東京郊外で起きた「小金井市十五人集団自殺事件」で亡くなったことを知り驚きます。この事件は、東京都小金井市の一軒家で、十五人の遺体が発見されたというもの。最初は集団自殺と思われましたが、その後の捜査によると、十五人全員に殺害された形跡があることが判明し、迷宮入りしています。ひとつ事件の手がかりがあるとしたら、亡くなった十五人が恐児のファンであったこと、書籍版「ノストラダムス・エイジ」を手にしていたことです。そこにはかつて秋本友里子になりすまして本を出版しようとした偽物もいて―

 

一体誰がこのような事件を起こしたのでしょう。物語は世紀末五銃士とゴンベエの妹・井岡紗那、そして新聞記者・中澤の視点で推理していくことになります。

 

 

 

 マンデラ・エフェクト

 

さて、ここからミステリー風になっていくわけですが、面白いのは登場人物たちが全員記憶障害を持ち、イカれているということです。最も症状が重かったのがイエヤスでした。初めて記憶障害を自覚したのは、世紀末五銃士で集まった久しぶりのオフ会。途中でトイレに行ったイエヤスは、ウォシュレットを使おうとリモコンに視線をやると、さっきあったはずの場所にそれがなくなっていることに気づきます。おかしいなと思いつつ、今度はトイレットペーパーに視線をやると、それもない。まさかと思いドアに視線をやると、それもない。パニックになったイエヤスですが、360度に視線をやると、リモコンもトイレットペーパーもドアもさっきとは反対方向に設置されていることがわかり、慌ててみんなのもとへ駆け出します。

 

今あったことを興奮して話すイエヤスですが、なぜか全員呆れたような顔をします。「また、始まった」「最近物忘れ多いよね」そんな風にイエヤスのことを見ているのです。腑に落ちないイエヤスですが、再びある違和感が彼を襲います。あれ?なんか全員さっきと雰囲気が違わない?髪の長さが違ったり、髯が伸びていたり、太っていたり・・。その違和感はオフ会がお開きになった後も続きます。街並みがいつもと違う、ラーメン屋が蕎麦屋になっていたり、いつも愛想の悪い店員が笑顔だったり。さらに困るのは、こういった現象はイエヤスがトイレに行く度に起こるのです。トイレに行く度に世界が少し変化しているのです。

 

イエヤスはこの不思議な体験をマトリックスに相談すると、「それはマンデラ・エフェクトのひとつかもしれない」と言われます。マンデラ・エフェクトとは「事実と異なる記憶を不特定多数の人が共有している現象を指すインターネットスラング、およびその原因を超常現象や陰謀論として解釈する都市伝説の総称である(Wikipedia)」のことで、名前の由来は、「当時存命中だった南アフリカの指導者ネルソン・マンデラについて、1980年代に獄中死していたという記憶を持つ人が大勢現れたこと」にあるそうです。

 

マトリックス曰はく、イエヤスはトイレに行く度に意識だけが世界線を移動するとのこと。世界線Aにいる自分がBに行き、Cに行き・・そのとき元々その世界線にいた自分もところてん方式に他の世界に押し出されていくのではないか。これがマトリックスの見解でした。

 

こうしてイエヤスは繰り返し色々な世界線を渡るうちに、いつのまにか刑務所のトイレに座っています。え?どういうこと?と思いますよね。なんとイエヤスは次の世界線で「小金井市十五人集団自殺事件」の犯人になっていたのです。

 

 

 

 まとめ

 

え~っ!!という展開が続きますが、こんなのはまだ序の口です。なんせ全員イカれている状態ですからね。全員の記憶が飛び飛びで信用ならないのです。事件を追っていくと、イエヤス以外も相当あやしいのですが、なぜに集団自殺に見せかけた殺人を犯したかまではさっぱりわかりません。

 

ずっとオカルトネタが続くので、きっと犯人も犯行目的もオカルト的要素を含んだものだろう。そう思っていると、すっかり騙されてしまうので要注意。ラストはまったく予想外の方向へ行ってしまいます。

 

世紀末五銃士のメンバーは全員1999年の7月生まれ。人類滅亡と言われていた時代にピンポイントで生まれてきた子たちです。当時は「ノストラダムス・エイジ」の秋本友里子のように「どうせ1999年の7月に死んでしまうから結婚しない」というオカルト信者もいたのではないでしょうか。しかし世紀末五銃士の親たちは、全員そんなことはどこ吹く風で彼らを出産しています。

 

なので本書はちょうど世紀末五銃士の親世代の方にはかなりツボる内容になっているかと思います。しかし気になるのが、秋本友里子の予知夢が本物だったのか?と言うこと。彼女はコロナパンデミック以外に、熊本地震やノートルダム大聖堂の火事なども命中させていますし、子供の頃はスプーン曲げも出来たのです!そこについてはオカルト要素を残したまま終わるのがとてもイイと思いました。

 

マンデラ効果、パラレルワールド、薬物、仮想通貨、精子提供、漢民線、ユニバース25、サイキック・ドライビング。この手のワードが好きな人の好きがつまった一冊なので、ピン!ときた方はぜひ読んでみてください。

 

面白いです。

 

 

 

以上、『ノストラダムス・エイジ』のレビューでした!

 

 

 

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