今回ご紹介するのは、望月麻衣さんの『満月珈琲店の星詠み』シリーズの第三弾になります。

 

ちなみにこれまでのシリーズはこちら↓

 

(気になる方は順番に読んでみてください)

 

満月珈琲店は満月の夜にしか開店しない移動式の喫茶店。そこで働く店員はすべて猫という設定です。しかし彼らは人間に変身することができ、二足歩行の猫人間になることもできます。また、それぞれが担当の星(火星、水星、木星など)を持っています。そんな愉快な珈琲店に行けるのは、猫たちに選ばれし者だけ。これまでは猫たちとゆかりのある人物たちがここを訪れ、星詠みをしてもらっていましたが、今回は少しだけ趣が違います。

 

いつもは何人かのお客さんを主人公にした連作短編になっていますが、三作目では一作目に登場した女優の両親の物語メインになっています。正直、こういう構成の方が物語の世界観にどっぷり浸かれるし、とても読みやすかったです。レビューに入る前に、ここで少し一作目に登場した女優についておさらいしますね。



 

 

不倫をした若手女優

 

その女優は鮎川沙月といいます。今大注目の若手女優ですが、年上の既婚者と不倫をしてしまい、世間から大バッシングを受けた人物でもあります。一作目では、満月珈琲店で人生相談を受けた沙月が謝罪会見を開き、心から反省したのに対し、相手がすべてを沙月のせいにして文句を垂れたことから世間の風向きが変わり、沙月への批判が落ち着いたところで終わりました。その後、沙月は真摯に仕事と向き合いながら、地道に周囲からの信頼を取り戻したようで、三作目では再び女優として活躍しているようです。

 

 

 

川田藤子

 

さて、そんな今回のメインは沙月の両親というわけですが、まずは母親の藤子の話からいきます。藤子は長年付き合っていた彼氏にフラれたあと、沙月を妊娠していたことを知りますが、彼にそのことを伝えず出産しています。ちなみに沙月には父親のことを「浮気されて別れた」と説明しています。

 

長年シングルマザーとして頑張ってきた藤子ですが、沙月が女優を目指して受けた映画のオーディションの原作者が元カレであることを知り、過去を思い出してしまいます。一方、彼の方も、自分にそっくりかつ同じ故郷出身の沙月を見て、「これは藤子と自分の娘ではないか」と直感します。

 

実はこのカップル、嫌いになって別れたわけではないのです。藤子は彼のことが異性として好きでしたが、彼は藤子のことを人間として尊敬し、深く愛していました。しかし彼の愛には、「欲」がなく、あるのは慈しみや優しさだけだったのです。そのため彼は藤子のことを一般的な恋人同士のように愛することができずに悩んでいました。そしていつの日か、このまま藤子を自分に付き合わせてはいけない、解放してあげなければいけないと思い、自ら別れを切り出したのです。

 

そんな彼の葛藤に気づきながらも付き合い続けていた藤子は、「最後のお願い」として彼と肌を重ねます。その結果、できたのが沙月だったというわけです。長年の間、自分だけの秘密としていた沙月の存在が、まさかのかたちで彼にバレてしまった藤子ですが、彼女はその事実を決して認めようとはせず・・・

 

ところがその後、ニュースで彼が交通事故で重体になっていると知ります。どうやら彼は自殺を図ったようで・・一体なにがあったのでしょう?

 

 

 

鮎沢渉

 

鮎沢渉はいじめられっ子でした。家庭では母と姑が対立し、父は留守がち。ヒステリックな母からは、勉強やピアノを強制され、家でも休まる瞬間がありません。そんなとき、絶望の淵にいた自分を救ってくれたのが同級生の川田藤子でした。藤子は渉がいじめられる理由を「凡人は特別な人間に嫉妬し、排除したくなるもの。私も鮎川くんの特別な何かを察知していて、それを護りたかった」といい、いじめっこを蹴散らしてくれました。

 

それだけではありません。藤子は母親への不満まで聞いてくれ、「親のいうことに反抗しないで受け入れるなんて優しいね。逆らえば色んなものを傷つけてしまう可能性があるし、壊す危険性もあるけれど、そうしないで我慢できるのは弱さではなく、優しさだと思う」とも言ってくれたのです。また、母と姑の争いについても、たくさんの想いの中から良いものだけを選んで伝えればいいとアドバイスしてくれたおかげで、二人の言葉のポジティブな部分だけを切り取って双方に伝えることで、家庭の空気を改善することができました。

 

こうして鮎川は藤子のおかげでどんどん前向きになっていきます。そして鮎川は藤子のことが大好きになり、一生離れたくないと思うようになります。しかし成長するにつれ、自分には他の同性のように女性を愛することができないことに気づきます。藤子のことを誰よりも愛しているのになぜ?この違和感は今後彼をとても苦しめることになります。

 

 

 

感想

 

ちょっと今回はホロリときちゃう内容でしたね。いつものように満月珈琲店でのアドバイスがメインになるというよりは、ほぼ二人の人生の詳細が描かれていました。

 

今回、猫がアドバイスしてくれたのは、「地上と宇宙の中間地点である五次元の世界では、人生の選択肢がたくさんある」ということ。そこには過去、現在、未来、前世、来世までありとあらゆる選択肢とフィールドがあるといいます。

 

三次元に生きる人たちは、この五次元にある選択肢から選んで自分の未来を決めていくらしいのです。五次元ではすべての時空が存在し、わかりやすくいうと夢の世界がそれに該当するそうです。確かに夢の中では過去も現在も未来もバラバラ。自分が選んでいない過去のフィールドを見たりもします。

 

たとえば時々よく分からないものに背中を押されたような気分になることはありませんか?それは未来のフィールドにいる自分が背中を押してくれているんですね。また、不意に過去の失敗を思い出して辛くなることはありませんか?それは過去の自分の嘆きが時空を超えて、届いてしまっているようなんです。そのとき、過去の自分を励ましてあげると、それを受けた過去の自分は、今の自分よりも早くに乗り越えられるのだとか。そうやっていると、やがて今の自分がピンチのときに未来の自分が助けてくれるようになるそうです。

 

しかし、誰もがその「声」を受信できるとはかぎりません。自分の声を受け取るには、自分の心を偽らず、蔑ろにしないことが大切になってきます。藤子の場合は、不本意な選択をせざるを得ないとき、まずは「嫌だ」という気持ちを我慢せずに認めること、次にそんな自分に事情を説明し、しっかり謝ること、そして最後に「けれどもこうするしかないから決断した」ことをしっかりと決意表明することが求められていました。そうすることで、自分を蔑ろにせず、被害者にもならず、未来へ進んでいくことができるそうです。

 

藤子はこのアドバイスを受け、自分の過去の決断を振り返り、ある行動にでます。それはハッピーエンドかバッドエンドか。つづきは本編をご確認ください。

 

さいごに副題の「ライオンズゲート」について。「ライオンズゲート」とは宇宙と地球をつないでいるといわれている異次元の扉のことで、毎年、八月八日前後に扉が開かれることで、普段は入って来ないパワフルな宇宙のエネルギーが地球に降り注ぐといわれています。「ライオンズゲート」と呼ばれるのは、太陽に獅子座が入っているときに起こるためです。

 

あまりに強いエネルギーなので、敏感な人はイライラしたり体調不良を起こしてしまう可能性アリ。しかし、それはしっかりとエネルギーを受け取っている証拠なので悪いことではないそうです(そういった人はそのあと好転する)。2024年は7/26~8/12の期間に扉が開かれます。その期間はぜひ、自分自身にいろいろなことを問いかけてみてください。「本当は何がしたい?」「どんな自分でいたい?」など、自分の内にある声をしっかり聴いてあげてくださいね。きっと良いことがありますよ。

 

ダイビング・ソーダに、薄明ラムネ、シリウスのレアチーズケーキに、雨のプレッツェル、そして夏の大三角形のアイスキャンディー。個人的に今回のメニューが一番インスタ映えしそうでおいしそうでした。この気持ちを共有したいので、ぜひシリーズをお読みください。占い好きの方にはオススメです。

 

 

以上、『満月珈琲店の星詠み~ライオンズゲートの奇跡~』のレビューでした!