今回ご紹介するのは、西洋占星術をモチーフにしたシリーズものの小説になります。

 

その名も『満月珈琲店の星詠み』(第一巻)。

 

満月の夜にしか現れない不思議な珈琲店。そこの店員はなんと猫。星にちなんだ極上スイーツとドリンクで悩めるお客さんをもてなします。

 

一巻に登場するのは、スランプ中のシナリオライター、不倫未遂のディレクター、スキャンダルで大ピンチの女優、恋するIT起業家、そして仕事を辞めたばかりの美容師。実は彼らには同じ小学校出身という共通点があり―

 

さっそくですが、少しだけ物語の世界観をレビューしていこうと思います。

 

 

 

 

 

不思議なカフェ

 

満月珈琲店は誰でも利用できるわけではありません。ここに導かれるのはある条件を満たした人だけ。つまりは選ばれし者だけです。一巻で登場するお客さんは、同じ小学校出身で同じ登校班だった人たち。彼らは皆、現在ある悩みを抱えています。

 

満月珈琲店はそんな人生に行き詰っている人々を猫の店員たちが癒してくれる夢のような場所。お客さんの悩みを解決すべく西洋占星術をもとにアドバイスをしてくれます。

 

満月珈琲店ではお客さんからの注文は受け入れず、すべてマスターの判断でそれぞれに提供するメニューが決まります。水瓶座のトライフル、惑星アイスのアフォガード、満月バターのホットケーキ、星屑のアイスコーヒー(朝焼けのシロップ入り)など、どれも西洋占星術に関係したものになっています。

 

さらに店員さんの名前までもが星にちなんだもの(サートゥルヌス、ヴィーナス、マーキュリー)になっているので注目を。思わず自分も行ってみたくなる素敵なカフェがそこにあります。

 

 

 

登場人物のリレー

 

本書は悩める登場人物別の連作短編となっています。最初に登場するのは、シナリオライターの芹川瑞希という女性。かつて芹川はドラマのヒット作を連発する超売れっ子でしたが、年々時代の変化に対応できなくなり、現在は細々とソーシャルゲームの(しかも脇役の)シナリオを書きながら生きています。そのため収入も減り、これまで住んでいたお気に入りの高級マンションから安くて居心地の悪いマンションへ引っ越すことになり・・だけでなく、十年付き合っていた彼にもフラれ、人生に絶望しています。

 

そんな時、芹川は売れっ子時代共に仕事をしていた中山ディレクターから連絡があり、会うことになります。実は少し前に芹川は勇気を振り絞って中山に企画書を送っていたのです。しかし、返事はノー。「会議にかけてはみたけれど、時代に合っていないと判断された」と言われます。

 

このあと完璧に落ち込んだ芹川の前に現れたのが満月珈琲店、という流れになります。面白いのはこの話の次の主人公が中山であること。芹川のあとは中山が満月珈琲店に導かれるという構成になっています。

 

 

 

西洋占星術

 

話は戻って、芹川はこの何とも不思議なカフェで、猫から「水瓶座のトライフル」というメニューを提供されます。このメニューを出されたのには意味があり、それは「今は魚座の時代から水瓶座の時代に変わったから」というものでした。猫の星詠みによると、芹川が今まで売れていたのは魚座の時代に自身の作風がマッチしていたから。しかしそれが水瓶座の時代に切り替わったとたん、上手くいかなくなったのだと言います。

 

水瓶座のテーマは「革命」。前時代から引き摺る価値観を一新させるしかなくなる。集団で同じ頂点を目指す時代から個々の時代になる。個々に発言力がつき、人は人、自分は自分という世の中になる。そう説明された芹川は、思えば自分が「言われたとおりに努力すれば報われる」という魚座の時代的な話ばかりを書いてきたことに気づきます。

 

さらにホロスコープの第四室の星座は牡牛座で、そこに金星と月が隣り合って入っていることから、自分自身が素敵だと思える家に住まないと、気分が落ち込んでどんどん良くない方向に向かってしまうことを指摘されます。つまり芹川は、収入が減ったから安い家に住むのではなく、住み続けたいと思う家にいることでがんばれるタイプらしいのです。

 

猫は言います。「自分を理解するというのは、自分を大切にすることにつながります。そうすることで、あなたという星が輝きだすんですよ」と。

 

いやぁ~いいですね。ホロスコープを解説してくれる猫なんて!芹川は「水瓶座のトライフル」を食べながら、生クリーム、フルーツ、ゼリーがそれぞれちゃんと自己主張しながらも喧嘩することなく、互いを引き立て合うようにして、口の中で溶けていくその意味を胸に、これから先の生き方を考えるのでした。

 

 

 

感想

 

本書を読んでいると、自分のためにもなるなぁというアドバイスがたくさん出てきます。もう猫たち、ありがとう!たとえば、惑星と年齢粋の説明にて。占星術には「年齢域」という、人生の節目の年代を10天体にあてはめて解釈する方法があり(0~7歳=月、8~15歳=水星期、16~24歳=金星期、25~35歳=太陽期、35~45歳=火星期など)、それぞれの惑星期には意味があるのだとか。

 

月は「感覚」「心」を育て、水星期は社会から様々なことを学び、金星期は趣味や恋愛について覚え、太陽期は自分の足で人生を歩み出すことを意味します。しかし月、水星、火星、太陽期をちゃんと経ていないと次に進めなくなったりすることがあります。それぞれの時期に必要な学びがあるので、それをちゃんと学んでいないと、補習があるのです。月の時期(子どもの頃)に、親と向き合えなかった人は、二十代半ばの太陽期に親と大きく衝突したり、学生時代を示す水星期に勉強をしていないと、火星期に学ぶことが多くなったりするそうです。

 

猫は西洋占星術のことを占いではなく、自分を知るための手がかりだと言います。ホロスコープは、未来を占うものではなく、自分の人生を自分らしく歩むための羅針盤。これにはなるほどなぁと思いました。

 

また、一番驚いたのは、この猫たちの正体です。なぜに猫?と、ずっと思っていましたが、意味が分かると納得。めちゃくちゃ良い話じゃないか~!!となりますよ。私、感動しちゃいました。

 

おしゃれなカフェに、かわいい動物、そして最近ハマっている夜空と占いという組み合わせの本は、まさに最高でした。うん、うん、この世界観とても好き!!本書を読みながら思い出していた本が参考文献に載っていたのをみて少し運命を感じたのは我ながら夢子ちゃんだと自覚しております。

 

皆さんもぜひ、夜空を眺めてみてください。月を見ていると何だかこの本が読みたくなってきますよ。

 

人が宇宙にの神秘に魅せられるのはなぜでしょうね。

 

 

以上、『満月珈琲店の星詠み』のレビューでした!