今回ご紹介するのは、澤村伊智さんのSF短編小説です。

 

その名も『ファミリーランド』ということから、科学技術が発展して便利な世の中になっても尚、家族の呪縛からは逃れらない人たちが登場します。

 

AIもロボットも、シンギュラリティでも敵わない、親子という奈落 家族という監獄(キャッチコピーより)

 

さっそくですが、以下にレビューをしていきます!

 

 

 

 

本当にいい時代?

 

コンピューターお義母さん

老人介護施設からスマートデバイスを使って嫁を監視する姑。冷蔵庫の中身、食事の計画、買い物状況、息子の勉強、嫁の帰宅時間まで何でも監視しては口出ししてきます。この世界では家中にセンサーがついており、ネットデバイスとアプリを駆使すれば、家の情報は姑にも筒抜け。超監視・管理社会なのです。

 

 

翼の折れた金魚

「コキュニア」という薬を飲んで、計画的に妊娠をすると、金髪碧眼で健康なデザイナーチャイルドが生まれてくる世界。しかし、この世界では親が「コキュニア」を服用せず、無計画で出産した子供たちは、”デキオ”や”デキコ”と呼ばれ差別されています。

 

 

マリッジサバイバー

出世のために家庭を持ちたい男が次世代型婚活サイトを使ってビジネス婚を目指します。しかし、そのためには膨大な量の個人情報の提出が必要で・・・。このサイトの目的は、いつでもどこでも「夫」として安心できる登録者を見つけること。愛情よりも、きちんと管理されている男性であることが重視されています。

 

 

今夜宇宙船の見える丘に

父親をひとりで介護する無職の息子。もうすぐ貯金が尽きることを知り、焦りますが、どうすることもできません。この世界では介護の負担を減らすために、「ケアフェーズ」という素人でも簡単にできる外科的処置キットが売られています。息子は父親に対し、既に両足を切断する「フェーズ2」まで行っており、現在はそれ以上までやるかどうか悩んでいます。

 

 

愛を語るより左記のとおり執り行おう

未来の日本ではお葬式もすべてデジタル形式で行われています。デバイスコンタクトレンズを目に入れ、専用アプリ「シェアスペース」を同期させるだけで、あっという間に使用者同士が同じ空間にいるかのように錯覚できるのです。そんな世界で、ひとりのがん患者が「自分が亡くなったら昔のお葬式をやってほしい」と言い出します。葬儀会社、お寺、通夜、香典、死化粧、焼香、お斎、すべての概念を持たない未来人たちは、必死に昔の資料をあさり完璧なお葬式をしようと奮闘します。

 

 

 

サヨナキが飛んだ日

 

個人的に一番面白かったのは、『サヨナキが飛んだ日』というお話。サヨナキとは鳥型の看護ロボットで、どの家庭にも一台はある優れものです。サヨナキが凄いのは、新型が出るに連れて高度な知能を持ち、自律型のロボットになっていること。幼い頃からずっとサヨナキに面倒をみてもらっていた瑠奈は、成人してからもサヨナキを溺愛しています。しかし、そんな娘の姿を見て母親はサヨナキに嫉妬してしまい、「あんなものから離さないと瑠奈は狂ってしまう」と怒り出します。

 

この頃、看護ロボットがいないと不安になる人たちで溢れ、どこでもサヨナキを連れて歩くという現象が起こっていました。そういった人たちは「鳥人」と呼ばれ、人とはコミュニケーションを取らず、タブレットを通してロボットとしか会話しないことが問題化されていました。

 

なんてね。

 

実はそう思っているのは、この母親だけ。しかし狂った母親は、ロボットから瑠奈を救い出すことしか頭にありません。

 

一方、瑠奈は母親からの束縛にウンザリしています。付き合う友人、恋人、進学先、就職先と何もかも口を出し、自分の言う通りにするよう押し付けてきた母親。これまでずっと父親を亡くした母親に同情し、言いなりになってきた瑠奈ですが、最後の砦サヨナキまで奪わるのだけは阻止したいと思っています。

 

そんなことを知らない母親は、瑠奈に残された唯一の友人サヨナキを壊してしまい・・・。

 

最後は親子喧嘩の末、とんでもない結末をむかえてしまうのですが、この母親はまったく娘の気持ちを理解できないまま生き続けます。

 

 

 

感想

 

どの物語にも「家族」が絡んでくる息苦しさがありました。どんなに便利な世の中になっても、家族の関係性というのは変わらないものですね。いつまでたっても他人が気になってしかたがない。結局みんな監視や管理に縛られ、逆に不自由な世の中に見えてきます。どちらがいいのでしょうね。便利と不便。なんだかんだで携帯もスマホもなかった時代の方が、心は穏やかだったかもしれません。

 

さて、本書ですが、基本的にそれぞれ独立した話になっているものの、「コンピューターお義母さん」に登場した〇〇さんが「今夜宇宙船の見える丘に」でも登場するサプライズつきになっています。こういう仕掛けってワクワクするので大好きです。これから読む人はそこらへんにも注目してみてくださいね。久しぶりにSFもいいですよ!

 

みなさんの気に入る話がありますように。

 

 

以上、『ファミリーランド』のレビューでした!

 

 

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