ホラー小説好きの間でも「怖い」と言われ有名な、澤村伊智さんの「ぼぎわんが、来る」。

 

個人的な感想は

 

怖さ★☆☆

面白さ★★★

 

といった感じで、他の人のレビューとはちょっと違ったものになりますが、読んで損なし&満足度100の一冊だったので、ぜひ参考にしてみてください。

 

 

ここが凄い!!

①本書の凄いところは、これが澤村さんのデビュー作だということ。この作品で第22回日本ホラー小説大賞で大賞を受賞しています。読むとわかりますが、デビュー作でこのクオリティかよ、と驚くほど文章も構成も何もかも優れています。

 

②本書は全3章構成で、章ごとに語り手が変わります。語り手が替わると、その人物が視点人物だったときには露わになっていなかった事実が出てくる仕掛けになっています。これには選考委員の綾辻行人さんや宮部みゆきさんも絶賛されていました。

 

③澤村さんは小さい頃から大のホラー好きだったとのことで、「ぼぎわんが、来る」は歴代ホラーのすべてを網羅したような完成度になっています。スピード感抜群で、最後まで無駄なく読めるのもオススメポイント。単に恐怖を売りにするのではなく、その歴史に焦点を当てて書かれているところも好感の持てる作品でした。

 

 

ぼぎわんとは?

謎のホラー耐性が出来てしまった私にとって、心の底から恐怖を感じる本はあまりないのですが、ここでは一般的にぼぎわんが「怖い」と言われるポイントをご紹介します。

 

・ある日突然、「〇〇さん、いますか?」と玄関前に来る

 

・ぼぎわんの呼びかけにうっかり応じるとターゲットにされ、つきまとわれる

 

・ぼぎわんはなぜかターゲットの家族や友人などを含む関係者すべての「名前」を知っていて、その人たちになりすまして近づいてくる

 

・ぼぎわんに見つかると噛まれて死ぬ

 

「ぼぎわん」はある地域に昔から伝わる人攫いの化け物で、色々な人になりきって騙してはターゲットを山に連れていきます。恐ろしいのは、うっかりしていると「ぼぎわん」だとは気づけずに、その呼びかけに応じてしまうこと。やつは自宅に来るだけでなく、電話や人を使っても連絡を取って来ようとします。

 

 

あらすじ

幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。原因不明の怪我を負った後輩は、入院先で憔悴してゆく。その後も秀樹の周囲に不審な電話やメールが届く。一連の怪異は、今は亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか?愛する家族を守るため秀樹は伝手をたどり、比嘉真琴という女性霊媒師に出会う。真琴は田原家に通いはじめるが、迫り来る存在が極めて凶暴なものだと知る。はたして“ぼぎわん”の魔の手から、逃れることはできるのか……。

 

本書ではまず1章の語り手である田原秀樹が「ぼぎわん」に狙われます。実をいうと秀樹は子どもの頃、祖父母宅へ泊りに行っているときに一度ぼぎわんの呼びかけに応じてしまっているのです。それは寝たきりの祖父とふたりで留守番をしていたとき。突然「シヅさん(祖母の名)はいますか?」と知らぬ人が訪ねて来たので、つい秀樹は「いません」と返事をしてしまったのです。もちろん当時、秀樹は「ぼぎわん」のことを知らなかったので、当然の対応をしたまでですが、これ以降秀樹は大変な目に遭ってしまいます。

 

 

比嘉姉妹

どうやらぼぎわんは人の心の隙に入り込むのが得意なようで・・。大人になり妻子を持った秀樹は、ぼぎわんにとって隙だらけの人間になっていました。簡単にいうと、勘違いクズ男といいましょうか。まぁ奥さんと娘に嫌われていて、「さっさと死んでくれねーかな」と思われちゃうような男になっていました。

 

そんな秀樹をぼぎわんは狙います。返事をするまでしつこく、しつこく狙います。ぼぎわんは秀樹の身近な人間にも危害を加えることを知り、困惑した秀樹は民俗学者の友人から紹介してもらった比嘉真琴という霊媒師に助けを求めます。

 

マコトの霊視によると、ぼぎわんは悪霊で並大抵の霊能者では太刀打ちできない化け物であることが判明しました。そこで何人かの霊能者に協力してもらったのですが、全員がぼぎわんを恐れて逃げるか、負けるかのどちらかでした。結局ぼぎわんは、マコトの姉でその業界ではかなり有名人の琴子にお祓いをしてもらうことになったのですが・・・

 

 

ぼぎわんの正体

作中ではぼぎわんの正体をある程度書いてあるものの、謎に残された部分もありました。少しネタバレも含みますが、ここからは私の考察です。

 

まず、ぼぎわんは色んな悪霊をくっつけた集合体的な見た目をしています。しかし母体はきちんとあるようで、そやつがぼぎわんの元になっていることがわかります。

 

ぼぎわんは日本が貧しかった時代、生活苦から口減らしとして山にすてられた子どもや老人たちを引き取っていた幽霊で、当時は感謝されていたらしいのですが、日本が豊かになるとその存在を恐れられ、人々との関係が悪化してしまったそうです。以降、ぼぎわんは人間に危害を加えるようになり、凶悪化していったとされています。

 

そもそもぼぎわんが幽霊として彷徨い、口減らしを引き取っていた理由がほんとうに保護のためかと言われると微妙なところです。なぜなら、ぼぎわんには大きな口と牙があり、現在はそれでターゲットを噛み殺しているんですよね。あれ、これって、もしかして、ぼぎわんもかつて口減らしで山にすてられた子どもだったんじゃないの?お腹が減ったときに、こうしてすてられた人間を食べていたんじゃないの?これは私の妄想です。

 

どこの地域でも子どもの頃、悪さをすると「〇〇がやって来るぞ~」と、大人から脅されるアレ。アレがまさに「ぼぎわん」のようなものなのでしょう。最初はかわいそうな霊だったり、もしかしたら心のある霊だったかもしれませんが、何かをきっかけに凶悪化し、人々を苦しめるようになるというのはよくある話。ぼぎわんの場合は、人から「死ねばいいのに」と思われるような人物に近づいていたことからも、醜い存在に嫌悪感と怒りを抱いていたのでしょうね。

 

 

<感想>

よく喧嘩ばかりの家庭や暗ーい環境の家には霊が集まって、(あとネガティブな人とか)、それとは正反対を心がけると霊を寄せつけないといいますよね。いくらお祓いをして一件落着♪と思っても、再び誰かに嫉妬したり、恨んだりするようなことがあると、また悪いものがやって来るのではないかとか・・。

 

だって来ない人には全然ですしね。そう考えると田原一家は、一生そういったものと付き合っていくしかないような気がしました。

 

呪いやまじないがちょっとしたブームになっていた時期もありましたが、当時誰かに実践して「やりっぱなし」になっている人は要注意です。私は昔「やられたこと」があります。中学生の頃、友達から「自分の好きな人のことをとられそうだから」という理由で。すべてその友人の妄想だったのですが、思い込みの激しさからそう至ったみたいで・・いまだにいい気分はしませんね。

 

人からもらったお札やお守りに細工をされていて、それが原因で悪霊を呼び込んでいるなんてこともあるようですよ。こわい、こわい。やっぱりどう見ても、人間が一番こわい。

 

正直、ぼぎわんよりも、自分の経験からも、秀樹の実家が一番こわいと思った私でした。

 

本書に登場した霊媒師がさまざまな怪異に遭遇する「比嘉姉妹シリーズ」も続編としてあるので、ぼぎわんにぞわっとした人は全シリーズ読破してみてはいかがでしょうか。

 

以上、「ぼぎわんが、来た」のレビューでした!

 

 

 

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