ガッツリ頭を使う本や、ちょいとヘヴィーな本を読んだ後に、思いっきり笑える本を読みたくなることはありませんか?

 

そんなとき「これがオススメだよ!」と昔からよく言われるのが、東野圭吾さんの『歪笑小説』です。

 

東野圭吾さんといったらミステリのイメージが強めですが、今からご紹介する『歪笑小説』にはそんな要素はまったくゼロ。遊び心満載で、筆者のお茶目な人物像が浮かんでくるくらいです。

 

実はこの小説は、『○笑小説』シリーズの4作目で、『歪笑小説』の他には『怪笑小説』『毒笑小説』『黒笑小説』があります。なぜ今回いきなり4作目のレビューをするかというと、ネットの評判ではコレがイチオシされていたからです。

 

簡単に内容を説明すると、本書は灸英社という出版社で繰り広げられる珍事件を描いたユーモア短編集になります。名物編集長から新人編集者、さらに大御所作家から作家を目指すサラリーマンまでバラエティー豊かなキャラクターがわんさか登場します。面白いのは巻末に、灸英社から小説を出した作家たちの広告が載っていること。本物そっくりの広告ですが、これはギャグなので、決して書店やAmazonで探さないようにしてくださいね。

 

 

 

 

 

 

新人作家

 

本書に登場する新人作家で注目したいのが熱海圭介唐傘ザンゲのふたりです。唐傘さんの方は才能があり、謙虚かつ熱心だからいいとして、問題は熱海圭介です。彼は文才こそありませんが、勘違いの才能に長けています。熱海は『撃鉄のポエム』というハードボイルド小説で灸英社主催の新人賞を受賞しているのですが、それがとんでもない作品なのです。一匹狼の刑事が単独でマフィアと接触したり、米軍基地からヘリを盗んできたりと、まぁ非現実的な設定だらけ。しかし本人は今をときめく人気俳優たちに映像化してもらえるほどの大作だと自信満々です。しかも謎に上から目線。本格ミステリなど書けないくせに、できると言い張り、家でパニックになったり、あまりの売れなさに悩んだ会社側が奇抜なキャラクターで目立たせようとして、最終的にアフロヘアにさせられたり・・どんどん笑える展開になっていきます。

 

唐傘さんですか?彼は名前こそ変ですが、真面目な人で気苦労は多いものの、順調に有名な文学賞を受賞していきます。

 

 

 

ここが変だよ、出版社!

 

私がいちばん笑えたのが「小説誌」という話。編集者の神田の息子を含む中学生が、週刊誌『小説灸英』の編集部へと見学に来ます。上司から彼らの相手役を任せられた青山は、そこで壮絶な質問攻めに遭うことになり・・・。

 

彼らは言います。「小説誌は売れるのか?」と。「連載中の長編小説がたくさん載っているが、見ると連載三回目とか十回目とか、全部ばらばらで、これではいつ買ったとしても大抵の作品は連載の途中で、ほとんど読むところがないではないか」と。これに対し青山は「長編小説を連載で載せてから単行本化するから儲けはある」「前回のあらすじが載っているから途中からでも大丈夫」と、やや苦しい返しをします。すると、ひとりの中学生から「作家は小説誌に下書きを載せているということですね。読者は完成品じゃないものを買わされているんだ」と鋭い指摘が!おまけに連載小説の中には単行本化されていないものもあるが、これはどういうことかと突っ込まれてしまいます。

 

 

なぜ高い原稿料を払ってまで、連載小説を掲載するのですか。単行本化が目的だというのはわかりました。だけど実際には、その目的すら果たせないケースがあるわけですよね。その場合、作家は原稿料を返金するんですか。しないですよね、たぶん。じゃあ、その連載は一体何のために行われたことになるのですか。(略)『小説灸英』には、読み切りの小説だけを掲載する。それなら立派な商品になると思います。(略)お金を取って読者に提供するからには、完成品だと自信をもっていえる作品でなきゃだめだと思います。単行本の時に書き直すんじゃ、仮に連載中に読んでいた人たちがいたら、その人たちはどうなるんですか。もう一度単行本を買えというんですか。それ、詐欺じゃないですか(p170₋174より一部抜粋)

辛辣すぎて笑い泣きしそうです。しかし、ここで青山は「うるせええええっ」とブチ切れて、つい”本音”を叫んでしまうのです。「そんなことわかってる」「そうでもしないと作家のやつらが書かないから仕方がないんだ」「馬鹿たれ作家の相手をできるもんならやってみろってんだああ」。

 

青山は思わず、連載が下書きレベルなこと、それどころか誤字脱字は当たり前で、矛盾だらけの疑問だらけなこと、死んだはずの人物が生き返っているこなんてザラだと暴露します。けれども、そんなことに”直し”を要求した日には作家から「今後おたくの出版社とは付き合わない」と逆切れされるため、こちらで修正し、尻拭いをしているのだとまで告白します。

 

この事実を知った中学生たちは編集者に同情し、労いの言葉をかけてきます。そんなに大変な仕事だとは思わなかったと。気づくとフロア全体で青山に対するスタンディングオベーションが起きていたのでした。

 

 

 

伝説の男

 

なんといっても本書の要となるのは、灸英社書籍出版部編集長の獅子取です。彼の特技は土下座落。これまで何百冊ものベストセラーを生み出せてきたのは、とにかく売れる作家の原稿を手に入れるため、この名物土下座を繰り返してきたから。素晴らしい本を売るのではなく、中身がスカスカでも売れる本を売るのが彼のポリシーです。

 

獅子取は作家に気に入られるためなら本当に何でもします。プロポーズはもちろん、身に覚えのない謝罪をし、その何が理由で怒っているのかわからないクレームを作家のかわりに適当なところへ入れます。とにかく土下座、それもスライディング。特に街中や人前でやるのが有効なので、ここぞという時はそこを狙ってやります。

 

ただ、これでも獅子取は超やり手。基本的には良い人です。

 

 

 

感想

 

他にもヘンテコなキャラクターが笑えるほど出てくるのでお楽しみに。もうどのキャラクターも愛さずにはいられませんよ!これ続きないのかな~、続編が読みたいよ~と思える傑作でした。

 

個人的には獅子取編集長が唐傘ザンゲのために創設した文学賞で、まさかのまさか、選考委員の満場一致で新人賞に輝いた大凡均一さんの今後に期待です!彼には直本賞を取ってほしいなぁ。還暦近い受賞者で、夫婦で支えながら頑張ってきたそうで。授賞式へ向かうタクシーでふたりが手をつないで泣いているシーンが感動的でした。唐傘ザンゲには出来レースの小細工なんて必要ないので、こういう人にとってもらって本当に良かった!

 

めちゃくちゃ面白い小説ですが、ここにあることは多分真実であるとも思います。東野圭吾さんは何をおもいながらこの話を書いたのでしょうか??ただ最後の「本を買ってくれ!」は本音でしょう。ごめんなさい、この本は図書館で借りました。ザンゲします。本もだんだん置く場所がなくなってくると、新刊で買うのって限られた作家さんだけになっちゃうんですよね。まぁ私の場合、処分したり、すぐ古本屋に売ったりとかはしないので、そうなってしまうのですが。やはり作家さんにとっては購入してほしいし、ずっと大事に読んでほしいものですよね。私もそう思える本とこれからもたくさん出合っていきたいです。

 

他にも笑える本を発掘したら、またご紹介します!

 

 

以上、『歪笑小説』のレビューでした!