今一番オススメしたい大人のファンタジー小説。それが多崎礼さんの『レーエンデ国物語』シリーズです。今回は1、2巻に続き3巻「喝采か沈黙か」のレビューをしていきます。

 

※『レーエンデ国物語』を読む際は1巻から順に読むことを強くオススメします。ちなみに3巻には1巻と2巻のサイドストーリーなる【スペシャルストーリー】のおまけが付いてくるので、そういう意味でも早めに前の巻をお読みください
 

 

「喝采か沈黙か」の意味を知るとワクワクしてきます

 

 

尚、3巻のレビューには2巻のネタバレが含みます(そうでないと話ができない)

 

 

 

 

 

 前回までのあらすじ

 

3巻を読むには絶対に2巻の内容を理解する必要があります。以下は前回までの内容をまとめたものになります。

 

レーエンデ地方にあるダール村で生まれた怪力少女のテッサは、幼い頃に両親を亡くし、姉のアレーテと暮らしています。テッサは二十歳になると、ダール村の負債を肩代わりするため、幼馴染のキリルとイザークと共に民兵に志願します。

 

戦場でテッサはのちに生涯最高の恩師となるギム・シモンと出会います。しかしテッサは兵役の途中にダール村が神騎隊に襲われたことを知ると、軍を脱走して現地へ向かいます。そこでテッサが見たのは焼け野原になったダール村と無残な姿になった村人たちの遺体でした。愛する姉と多くの村人を失ったテッサはレーエンデに自由を取り戻すため、レーエンデ義勇軍を結成し、アルトベリ城を陥落させます。そして各地で立ち上がった反帝国勢力とともに、(法皇が住む)ノイエレニエに攻め上がろうとした矢先―

 

法皇が亡くなり、新たにエドアルド・ダンブロシオが法皇に即位するのですが、彼の奸計により反帝国勢力は瓦解し、多くのレーエンデ義勇軍たちが去っていきます。また、レイル村ではレーエンデ人による暴動が起き、大勢のレーエンデ人が亡くなったことを知ったテッサは自責の念を抱えます。

 

わずかに残った仲間たちとアルトベリ城に籠ったテッサ。そこにかつてテッサが所属した帝国軍の中隊がやって来ます。しかもそれはあのギム・シオン率いる中隊だったのです。レーエンデのため、泣きながら敬愛するシモンを倒したテッサですが、そうまでして守った城も、同胞の裏切りによって手放すことになってしまいます。最終的に帝国軍に投降することになったテッサは、皇帝となったエドアルドから城壁門の上に置かれた磔刑台に繋がれます。

 

水も食事も与えられず、眠ることも許さないまま、ひたすら衰弱死を待つこの刑。しかし皇帝から「お前が生きている間はウル族が住む森を焼かない」と言われたテッサは、少しでも彼らが避難する時間をかせぐため、一ヵ月も生き延びます。最期は枯れ枝のようになり、壊死してしまったテッサの遺骸は、帝国兵によって踏みにじられたあと埋葬されることなく、レーニエ湖に投げ捨てられました。

 

さらに帝国は英雄テッサの名の下に再びレーエンデ人が結束することを恐れ、彼女の名前を口にすることを禁じ、その歴史(記録)を封印します。こうして時の流れを経て、あっという間にレーエンデ人の記憶から消えてしまったテッサ。3巻はそれから100年後の時代にワープします。

 

 

 

 100年後のレーエンデ

 

今回の舞台はウル族の村、ティコ族の村に続いてノイエ族の住む村、ノイエレニエです。しかしこの時代のノイエレニエはイジョルニ人(帝国の人間)が住むノイエレニエと、レーエンデ人が住む新ノイエレニエに分かれています。(ちなみにウル族・ティコ族・ノイエ族とは古くからレーエンデに住む民族のことです)

 

初代法皇帝エドアルド亡き後に後継者となったルチアーノ・ダンブロシオは、蒸気機関車の実用化に乗り出し、外地とレーエンデを繋ぐ鉄道を完成させます。それはレーエンデのノイエレニエから聖イジョルニ帝国領にあるアルモニア州に続く鉄道で、それぞれの駅周辺は栄え、発展していきます。しかしイジョルニ人たちは、この駅があるノイエレニエを占領し、レーエンデ人が鉄道を使用することを禁じます。

 

100年前にテッサ亡き後、すぐに住処である森を焼かれたウル族は、多くの者が亡くなり、生き延びた者にも地獄の日々が待っていました。不慣れな街での暮らし、慣れない仕事、課せられる二倍の人頭税。困窮したウル族の多くは奴隷となり、酷使されたあと野山に捨てられました。一時はエドアルドの甘い言葉に騙され、戦争放棄したレーエンデ人ですが、結局それは罠で、今ではイジョルニ人は上級市民、レーエンデ人は下級市民という世界が出来上がっています。

 

下級市民は上級市民への奉仕が義務付けられ、職業の自由もありません。特に最後まで帝国軍に抵抗したウル族の扱いは酷く、多くが娼婦や男娼として生計を立てています。

 

 

 

 双子

 

今回の主人公であるアーロウ・ランベールと、リーアン・ランベールも娼婦の母から生まれた双子の兄弟になります。生まれながらにして男娼になることが決まっていた二人ですが、リーアンには劇作家としての才能があったため、男娼にならずに済み、現在はひとりでアパート暮らしをしています。一方、凡人のアーロウは男娼として生きていくしか術がなく、リーアンに対し複雑な心情を抱いています。

 

アーロウが所属するのは「月光亭」という娼館で、そこで働く娼婦や男娼たちは、娼館の裏にある「ルミニエル座」という劇場で役者もしています。つまり娼館と劇団は一体になっているというわけです。それには月光亭の売り物をお披露目する"見世物”としての役割だけでなく、表現の自由が守られている唯一の場所としての役割がありました。


第二代法皇帝ルチアーノは、不当な暴力から娼婦を保護するための「娼館保護法」を制定し、そこでは劇場内においてどんな台詞も不敬罪や反逆罪に問われないとしてきました。誇りを失ったレーエンデ人にとっては唯一尊厳を取り戻せる場所というわけです。この法はルチアーノ亡き後も守られ(廃止しようとすると災いが起きる)、娼婦たちの希望になっています。

 

そんな中、天才劇作家のリーアンは、レーエンデ人の矜持を取り戻すべく、英雄テッサの生涯を描いた戯曲を作ろうとします。実はイジョルニ人の有名演出家ミケーレ・シュティーレから「君の戯曲を演出したい」と依頼されたリーアンは、誰もが共感し感動する英雄譚を書くことでレーエンデの未来を変えたいと願っていたのです。

 

戯曲が完成したら、それを帝国の頂点、イジョルニ帝国劇場で上演してくれると言われたリーアン。それならば真実を知らないイジョルニ人とレーエンデ人たちに本当の歴史を突きつけることで、帝国の嘘を暴きたい。そう思っての行動でした。しかし、それはあまりにもリスキーな賭けであり、片割れの行く末を案じたアーロウは大反対します。

 

 

 

 テッサを探して

 

最初はリーアンの考えに猛反対していたアーロウですが、結局のところ「レーエンデに自由を取り戻したい」という志は同じであることから、戯曲制作に協力することにします。まずは失われた英雄テッサの歴史を調べるため、旅に出る二人。そこで次々と衝撃の事実を知ることになるのですが、その内容というのが二巻での出来事になります。今ではすっかり忘れ去られたテッサの革命と矜持をひっそりと受け継ぎ続けている命のバトン。あの人の言葉を、あの人のおもいを、受け継ぐ人たちとの出会いがそこにあります。もちろん真実の歴史を語り継いでいることがバレたら処罰を受けます。生きたまま幻魚のエサにされる「犠牲法」の生贄にされてしまいます。なので語り人たちは敵にばれないように普段はその素性を隠して生活しています。

 

このようにして命懸けで戯曲を完成させるリーアンですが、その後の展開はネタバレしてしまうのでノータッチとしておきます。ただ、4巻のレビューに3巻の内容を書く(そうしないと感想が書けない)ので、全シリーズを読む前に内容を入れておきたい方はどんどん先に読み進めちゃってください。

 

ここでは詳しく言えませんが、3巻の結末はこれまでより「希望」が明確になってきたような気がします。まだはっきりとした希望ではありませんが、夜明け前を匂わす展開になっています。何せ4巻のタイトルが『レーエンデ国物語 夜明け前』ですからね。夜明け前のさらに夜明けの序章的なのが3巻なのだと思います。

 

それでもまだハッピーエンドとは程遠いよ・・と嘆く方がいるかもしれませんが、少しずつですが、確実にレーエンデは変わってきています。これまで外地への道は閉ざされてきましたが、なんだかんだで鉄道はできましたし、テッサが陥落させたアルトベリ城は再び帝国のおひざ元になっていますが警備はかなり甘々になっています。そして何より1巻でヘクトルたちが築いた知る人ぞ知るシュライヴァへつながる隠しトンネルもあります。

 

さらにテッサが描いていたかたちとは違いますが、100年前に一応エドアルドが終戦したことで、戦争に費やされてきた資金や資源は、もっと人々のためになる産業や文化などに使われるようになりました。だからこそリーアンは天才劇作家として、そして本人は気づいていませんでしたがアーロウは天才演出家として、芸術の力で革命を起こすことを思いついたのです。

 

これは帝国の誤算になるでしょうね。前回テッサが武力ではなく教育でしかレーエンデを守ることはできないと無念の死を遂げましたが、ようやく彼女のおもいがここで生きてくるのではないでしょうか。

 

今回もレーエンデ人の中にレーエンデ人を苦しめる帝国の奴隷がいたり、イジョルニ人なのにレーエンデ人のために動いてくれるお金持ちがいたり、色々と考えさせられることがあります。

 

『レーエンデ国物語』の良さはこういうリアルさなんですよね。人と国はイコールではない。ぜひ最善の方法で、平和にレーエンデ国には独立を果たしてほしいと思います。

 

4巻はどうなるのでしょうか。

 

今から楽しみです。

 

 

以上、『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』のレビューでした!

 

 

注意点:3巻はかなりオトナな内容を含むので読書好きのキッズは覚悟せよ