今回は今話題の王道ファンタジー小説をご紹介します。

 

異なる世界、西ディコンセ大陸の聖イジョルニ帝国。母を失った領主の娘・ユリアは、結婚と淑やかさのみを求める親族から逃げ出すように冒険の旅に出る。呪われた地・レーエンデで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手・トリスタン。空を舞う泡虫、琥珀色に天へ伸びる古代樹、湖に建つ孤島城。ユリアはレーエンデに魅了され、森の民と暮らし始める。はじめての友達をつくり、はじめて仕事をし、はじめての恋を経て、親族の駒でしかなかった少女は、やがて帰るべき場所を得た。時を同じくして、建国の始祖の予言書が争乱を引き起こす。レーエンデを守るため、ユリアは帝国の存立を揺るがす戦いの渦中へと足を踏み入れる。(『レーエンデ国物語』公式サイトより)

 

 

 

こちらは(2024年3月現在で)まだ未完のシリーズものになります。とりあえずここでは一巻からレビューしていきますね。ちなみにこれから本書を読まれる方は、各巻で主人公や物語の年代は変わるものの、順番に読んでいかないと世界観が伝わらなくなるのでお気をつけください。

 

 

 

銀呪病

 

あらすじをザックリ言うと、この「レーエンデ国シリーズ」は、聖イジョルニ帝国にあるレーエンデ地方を巡り分裂した南北の州同士が長年にわたり争いを繰り広げる物語になります。

 

 

レーエンデはちょうど南北の中間地に存在しており、別名「呪われた土地」と呼ばれています。レーエンデには古くから「銀呪病」という風土病が蔓延し、その病には治療法も特効薬もないことから「感染したら死ぬ病」とも言われています。

 

銀呪病は満月の夜に外に出ていると感染します。満月の日、レーエンデは幻の魚が泳ぐ時化の海となり、それに巻き込まれると全身が銀の鱗に覆われる病に罹ってしまいます。対策としては、時化が来たら家の中に逃げるという方法があるのですが、万が一感染してしまった場合は苦しんだ末に亡くなります。

 

さらに銀呪病には若い人ほど進行が早く、余所者ほど重傷化しやすいという特徴があります。そのためレーエンデは他の地域から恐れられており、やや閉鎖的な場所となっています。

 

 

 

ヘクトルとトリスタン

 

そんな中、(レーエンデの真上に位置する)シュライヴァ州の首長の実弟ヘクトル・シュライヴァは、兄ヴィクトルからの命を受け、シュライヴァとレーエンデの間に交易路をつくるため、民たちを説得しにレーエンデを訪れます。民たちは兄ヴィクトルの企みが貿易以外にあることを察し、警戒しますが、弟ヘクトルの望みは医師や学者を招聘し、銀呪病を根絶することだと知り、協力することにします。そこでヴィクトルの交易路計画の手伝いをしてくれたのがトリスタンという人物。実は二人はかつて戦地で出会っており、そのときトリスタンは英雄ヴィクトルの活躍に憧れ尊敬していたのです。

 

しかしトリスタンは銀呪病を患っており、寿命も残りわずか。それなのにも関わらず、交易路交渉の際にヘクトルがレーエンデに連れて来た娘のユリアと恋に落ちてしまいます。ただ、銀呪病の者は子孫を残せないことや、想いを伝えても自分がすぐに死んでしまうことからトリスタンは恋心に蓋をし、ユリアの気持ちを拒絶します。

 

不運なことに病を患っているのはヘクトルも同じでした。ヘクトルは以前戦地で頭を打ってから少しずつ視力を失っています。誰にも心配や迷惑をかけたくないヘクトルは目のことを隠していますが―。それに一刻も早く気づいたトリスタンは残りの人生をヴィクトルの「目」になり生きることにします。

 

 

 

ユリアと神の子、悪魔の子

 

というわけで、トリスタンとユリアは結ばれない物語であることがわかってしまいます。想いを伝え合ってもそれ以上はないというファンタジーらしからぬ結末となっているのです(だかコレがいい!)。しかし、愛する者に置いて行かれる未来を知っているユリアは、これから何を希望にして生きてゆけばいいのかわからず不安になります。

 

そんな時、ユリアはある理由から銀呪の世界に導かれ、不思議な力によって銀呪病の子どもを身籠ってしまいます。これは古くから聖イジョルニ帝国に伝わる神の子もしくは悪魔の子であることが判明し―

 

なぜ神の子もしくは悪魔の子なのかというと、敵対する地域同士によってその見方がまったく違ってくるからです。レーエンデでは悪魔の子でも、法皇庁からすれば(政治利用できる)神の子といった認識であることから、ユリアは大好きなレーエンデの人から命を狙われることになります。

 

問題点:神の子(悪魔の子)は、レーエンデの人々からは恐れられていますが、生まれながらにして銀呪病を患っているためレーエンデの中でしか生きられません。この病に罹ってしまった者は、一歩でも外地へ出ると亡くなってしまうのです。こんな病は根絶した方がいいと思ってしまいますが、ある意味、銀呪病が蔓延っている限りレーエンデは敵から守られていると言ってもいいような・・。これはあくまでも私の見解です。

 

 

まとめ

 

物語の後半はユリアの子どもを巡り、二つの派閥(法皇庁率いる帝国軍VSヘクトル率いるシュライヴァ軍)が対立し戦闘を繰り返します。悪魔の子を殺そうとする者、神の子として利用する者。この争いの中には結局、長年空席になっている皇帝の座を狙う法皇庁最高司祭たちの醜い欲があるのです。皇帝になれば二分されている帝国をまとめて支配できる!そんな思惑があるのですね。それを最後まで必死に阻止し、レーエンデを守り抜こうとしたのがヘクトルとトリスタンなのです。

 

正直、トリスタンがおいしいところを全て持っていくので、ユリアの存在はかすんでいます。おそらく全員が「トリスタンすげー」となるでしょう。一方ユリアはというと、見た目のクールさからは想像がつかないくらい世間知らずのお嬢様という感じで、行動もどこかディズニープリンセスを思わせるものがあります。しかし、そんなユリアも「トリスタンがいなくなったら生きていけない~」という少女から、「レーエンデを守るために、(トリスタンがこの世を去っても)私が父上の目となって支えていく。もし父上が道半ばで倒れたら、そこから先は私が走る。何百年かかっても絶対に諦めない。法皇の手からエーレンデを取り戻す」という女性に成長します。

 

 

僕はずっと考えていました。どうやって貴方を慰めようか、どうすれば貴方の悲しみを癒せるのか、ずっと考えてきました。たとえば『貴女は充分に頑張った。だからもう自分を責めないで』と言ってみるとか。『僕の分まで強く生きてください』と懇願してみるとか。いろいろ考えてみたんですけど、どれも違うなって思ったんです。P476

 

トリスタンは命が尽きる前、ユリアに本音をぶちまけます。そして最終的に出した答えがこれでした。

 

振り返るな。立ち止まるな。前だけを見て走り抜け。生きていれば奪還の機会は必ず来る。P477

 

 

ね?一気にディズニープリンセスからジブリっぽくなってきますでしょ?ここからユリアは、この言葉を胸に、まるで「もののけ姫」のサンのようにかっこよくなっていきます。

 

残念ながらこの物語は最初からトリスタンの死が確定しているため彼は志半ばで灰になります。しかしその最期はとても美しいものでした。

 

第一巻ではヘクトルという英雄と、歴史の記録にも残っていない影の英雄トリスタン、そして神の子を産んだ聖女ユリアの物語として幕を閉じます。第二巻では「ユリアが神の御子を産み、法皇が侵攻してきてレーエンデを武力支配する世界になってから100年が過ぎた」ところからスタートするようです。もちろん主人公も新キャラにバトンタッチ。楽しみですね。

 

全体の感想としては、上橋菜穂子さんや荻原規子の小説に出て来るカタカナ語や名前は読んでいくうちに覚えられるけれど、『レーエンデ国物語』の人名や国名はなかなか頭に入ってこない!難しい!!ということ。

 

ただ、文章自体はかなりやさしめなのでスラスラ読めるかと思います。ちょっとエンジンかかるまで時間がかかるかも?興味のある方は頑張って読んでみてください。王道ファンタジーの世界観を楽しめます。

 

 

以上、『レーエンデ国物語』のレビューでした!

 

 

よろしければ本書を読む前に『レーエンデ国物語公式サイト』をご覧ください。物語の世界観がわかる作りになっていて、とても素晴らしいです!!

 

 

つづきはコチラから!