今回ご紹介するのは染井為人さんが芸能界の裏側を描いた短編小説になります。染井さんは芸能マネージャー、舞台演劇・ミュージカルプロデューサーを経て作家デビューをした異色の経歴の持ち主。本書にはその経験を生かした様々な物語が収録されています。芸能界に憧れている人、興味がある人にぜひオススメしたい一冊!さっそくですが、<あらすじ>と簡単な感想をご覧ください↓

 

 

<あらすじ>

黒い噂で業界から見放され、長年在籍したプロダクションを退所しようとしている俳優。人気女優を10年かけて育て上げ、今度はピン芸人と新人アイドルグループを担当する辣腕マネージャー。新しいファンを獲得しようと、Instagramにハマったベテラン女優。容姿端麗な若い男たちをキャストにミュージカルを運営する女性プロデューサー。容姿を弄るネタで30年笑いをとってきた漫才コンビ。誹謗中傷や家族の問題に悩まされているアイドル俳優。震災の町で芸能界の仕事をする娘を苦々しく思う父親。元芸能マネージャーの経験を活かした著者が、きらびやかな世界の光と影を描く、七つのエンターティンメント!

 

 
 

 

 

 

クランクアップ

かつて売れっ子俳優だった相原恭二。彼は若手の頃、行きつけのバーで飲んでいたら、ファンを名乗る男性からお酒を奢ってもらったことがあります。しかし、後日とある週刊誌にその様子をすっぱ抜かれ、なんと男性が反社の人間だったことを知ります。結果、恭二は芸能界から干され、現在はろくな仕事がなく、事務所を辞めようかと思っているところです。しかも今までお世話になった事務所の人を裏切るかたちで独立しようとしており・・・。結論をいうと、彼には罰が当たります。ハメられます。とても怖い映画に出演することになってしまうのです。

 

 

ファン

坂田純一は女優・蒼生ちづるを育てたことで有名な敏腕マネージャー。現在は自身のステップアップのため、ちづるの担当を外れて、新たに芸人と売り出し中のアイドルグループを担当しています。しかし彼らのマネージャーに就任して早々、芸人の方はスキャンダルを起こして謹慎、アイドルグループの方はあり得ない不祥事を起こして解散することになります。それだけでなく、過去に担当したちづるまである事件に巻き込まれ・・・。純一に落ち度はありませんが、まるで彼が担当するタレントを活動休止に追い込こもうとしている人物がいるような出来事が続いていきます。

 

 

いいね

五十歳になってインスタグラムに目覚めた元アイドルの石川恵子。彼女は若い頃の栄光が忘れられず、今もチヤホヤされることを諦められないイタイおばさん化しています。もともと破天荒だった恵子。そんな彼女がスターになれたのは、事務所のプロデュース能力のおかげでした。事務所が必死に石川恵子のイメージを作り、守り、良い印象を保ったまま良質な仕事を得てきた―のに、彼女は「ただのキレイなおばさん」になってしまったことが許せず、暴走してしまいます。やがて彼女は事務所の言うことを聞かなくなり、インスタグラムで自由な投稿を繰り返した結果、ファンが離れ、仕事がなくなっていき・・・。「売れている時は自分のおかげ、売れなくなったら事務所のせい」を表す典型的な主人公でした。

 

 

終幕

叶野花江はイケメン男子たちをキャストにミュージカルを運営する女性プロデューサー。しかし彼女の過去はブスでいじめられていた反動で整形を繰り返し、キレイになったらホストに狂い、そこで作った借金を結婚詐欺で得た金で返済するというとんでもないものでした。すっかり歪んでいる彼女は、現在もキャストたちをホスト扱いしたり、スタッフに暴言を吐いたりと好き放題に振る舞っています。ついには自分に色目を使うキャストを特別扱いするようになり・・・。この女、本当に最低です。イライラします。さっさと天罰が下りますようにと思って読んでいました。結果、とてもスッキリしました。

 

 

相方

容姿で笑いをとっていたコンビ「ミチノリ」。しかし世の中的に、もうそういったネタはNGになり、かつてのように笑いを取れなくなったことに悩んでいます。変わりたくないミチオと変わらなければならないと諭すノリオ。やがてコンビの間には亀裂が入り・・・。世代もあると思いますが、私も容姿イジリは苦手です。あれは芸なのか??特に日本人は容姿の基準に厳しいので、太っていない人でもポッチャリ認定されたり、痩せている人は痩せている人でガリガリだの、キモイだの言われる傾向にあり、息苦しいです。ちゃんと漫才で笑いを取ってくれよ~。この話を読んでもその考えにあまり変化はありませんでした。

 

 

ほんの気の迷い

これは気の毒な内容でした。栗原翔真(本名:田中勇太)は今もトキメク売れっ子俳優。しかし自身のイメージや好みとはまったく違う作品ばかりに出演しており、一部のアンチからナルシスト扱いされ誹謗中傷を受けています。また、彼の母親はカルトにハマっており、弟は地元で栗原翔真の名前をつかって女性たちをたぶらかしては金銭問題を起こしています。そんな日々の中でうっかりSNSでエゴサーチをしてしまった時、彼は突然体調が悪くなってしまいます。救急車を呼ぼうとしますが大事になることを恐れ、マネージャーに連絡しますが・・・。ここから先はちょっと感想すら書けないほど気の毒な展開になってしまいます。人権って何?と思うような結末です。

 

 

娘は女優

震災で妻と両親を失った父親。彼に残されたのは中学生のひとり娘・皆愛だけでした。しかし大事な娘は修学旅行先の東京で芸能事務所からスカウトされ、そのままオッケーしてしまいます。これに反対した父親は、何とか娘を芸能界から遠ざけようとするのですが、その間、皆愛は勝手に芸名をつけたり、グラビアをしたりと取り返しのつかないところまで行ってしまいます。正直、亡き母がつけてくれた名前より芸名の方が好きと言った皆愛には驚きましたが、なぜ彼女がこんなふうに強行突破するのか理由を知ったときにはホッとします。よかった~、ただの暴走娘じゃなくて。でも、そんなことをしなくてもこのお父さんなら理解してくれたと思うんだけれどなぁ。という内容の物語でした。

 

 

以上が『芸能界』のレビューになります。

 

まったくこの業界のことはわかりませんが、芸能界って大変ですね。スキャンダル狙いで近寄ってくる人がいたり、信じていた人がソレだったりで誰も信用できない。イメージで商売しているだけにスキャンダルは命取り。目立ちすぎても狙われるし、売れないと事務所から見捨てられた気持ちにもなるし・・。

 

だからといって今さら一般人にもなれない。もはや一般人とは常識が違い過ぎるし、生活レベルも落とせない。ずっと一線で活躍できる人なんてほんの一握り、順調そうでもどこかでとんでもない不幸に遭っている人がほとんど。表ではキラキラしていても、裏では家族にお金を使われていたり、友達に情報を売られたり、事務所からパワハラを受けていたり。

 

怖い、怖い。

 

ふつうの感覚ではできない職業ですよね。本当に繊細とか、大人しいとか、そんな人がトップに立てるわけがない世界です。強くないとやっていられない。それでもこの業界を目指す子は本当に多いですよね。壊れない程度に頑張ってほしいです。生き残るには、ある意味、自分なんて持たないほうがいい世界なのかもしれませんね。事務所から与えられたイメージにどれだけ沿って生きられるか、世間を騙せるか。自己プロデュースしたとたん売れなくなる芸能人がわんさかいるだけに、お上のYESマンになりきれる人が向いているのでしょうね。

 

と、いろいろと考えてしまいました。

 

考えてしまうけれど、本自体はあっという間に読み終えられます。

 

面白いのでホントにあっという間。どれが面白い?とかではなく、全部当たりです。

 

というわけで、みなさんも読んでみましょう。本書を読んだ後、テレビを観ると「芸能人って大変だな」と妙に同情的な目線で見てしまう自分がいます。ドラマの視聴率が悪くても役者ひとりのせいではないじゃん、ゴリ押しといったってこの子は会社の言う通りに動いているだけ、この人は悪いやつらにハメられてスキャンダルを起こして潰されたんだろうなぁ~と、何となく寛容?な気持ちになっちゃいます。

 

さすがにSNSの誹謗中傷はかわいそうですね。あれが自分だったらと思うとゾッとするし、耐えられません。冗談なしで死んじゃうレベルです。まぁ芸能人の全部が全部クリーンなわけではないし、マネージャーや事務所泣かせの人もいるのでしょうけれど。

 

強さと脆さは紙一重。そういうことなのかな。少しだけ芸能界をのぞき見できたような一冊でした!

 

 

 

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