凪良ゆうさんは大好きですが、『滅びの前のシャングリラ』だけは、「一か月後、小惑星が衝突し、地球が滅びる」というあらすじを見て、SF系は苦手だなぁと今まで読まずにいました。まさに読まず嫌いってヤツです。

 

人類が滅亡するまでのわずかな時間、懸命に生きる人々たち・・

 

きっと凪良さんだから面白いのだろうけれど、なんとなく読む気にはなれず放置していました。しかし、定期的にやってくる「なんか読みやすくてハマれる本はないかなぁ」という期間に突入した際、圧倒的に高評価レビューだった本書の存在を思い出し、ようやく重い腰をあげることにました。

 

実をいうと、読む前は「なんだかんだで結局、小惑星は衝突しないんじゃない?」なんてハッピーエンドを疑っていたのですが、読んでみるとそんなことは全くなく、普通にドカーンといっちゃったようで。その容赦ない結末に惚れ惚れしました。

 

しかも、ちゃんと地球は滅びるのに、みんなハッピーエンドで終わるところもGOOD。まだまだ明日は続くと思っていたときには死にたいと願っていた人たちも、いざ小惑星が衝突して人類が滅亡するとわかったとたん、人生に希望を見出してしまうというのがリアルでした。

 

 

 

 

地球消滅

 

たとえば、人生にうんざりしていた高校生の友樹はクラスメイトたちからいじめに遭っています。いじめの内容はどれも残酷で、学年一の美女・雪絵の前で恥をかかせるようなものばかり。それでも友樹はユーモアをモットーとした妄想でつらい現実をやり過ごしてきました。

 

不幸や幸せはいつも他人の目や口によって露わにされる。誰かが自分を気の毒に思えば、そんな自覚はなくとも不幸認定されてしまうし、幸せの基準も他者との比較によって正しさを見失ってしまう。

 

だからこそ友樹はシングルマザー家庭で貧乏なことを馬鹿にされても、食生活が乱れて太っていることを弄られても、自分軸を保つことを忘れませんでした。そんな友樹は恋愛に対しては奥手と見せかけて、結構積極的です。あの雪絵が死ぬ前に東京へ行きたいと言ったときに、勝手に護衛としてついていっちゃうくらい大胆。

 

しかし、まもなく消滅する世界ではあちこちで暴動や殺人が起こり、雪絵も友樹のことをいじめていた男子からレイプされそうになります。もちろんその現場をストーカー友樹が阻止し、雪絵を連れて逃走しますが、再び彼と会った時にボコボコにされてしまいます。ついには命まで狙われる!となったその時、横から現れた何者かによっていじめっ子はぶっ飛ばされるところで一章が終わります。

 

このとき現れた恩人の正体は、母親から死んだと聞かされていた友樹の父親なのですが、ここから先(二・三章)は両親の生い立ち〜出会い、そして友樹の前に現れるまでの過程などが書かれた話になっていきます。

 

 

 

死ぬまでにしたいこと

 

友樹の母は元ヤン、父はヤクザのはしくれという設定だったので、正直ヤクザものが苦手な私はこの章を読むのに気が進まず、読み終えるまでに時間がかかってしまいました。少々離脱しかけましたが、二章三章をまとめると、別れた父親が死ぬ前に未だ愛する母親に会いに行き、母親も父親に黙って友樹を産んだことを告白し、もう一度ふたりで息子の親としてやり直す的な内容になっています。もう死んでしまうのだから色々と思い残しをしてもしかたがないんですね。

 

このように、物語は登場人物たちが「死ぬまでの時間の中でしたいことをしていく」という展開になっていきます。友樹もいじめられっ子という立場から秘めていた雪絵への恋心を隠さず、さいごまで彼女を守るつもりでいるし、雪絵も自身の悩み事と学校で友樹に冷たい対応をとっていたことを詫びます。

 

個人的にはヤンキー夫婦の話よりも、終章の歌姫の話の方が面白かったです。山田路子(やまだみちこ)は、Locoという芸名の売れっ子歌手なのですが、今の地位を得るまでには売れないお色気アイドルをさせられたり、関西弁を封印させられたり、整形させられたりと自分を削る行為を強要されてきました。

 

気づくと過酷なダイエットから摂食障害になり、メンタルもボロボロに。地球滅亡のニュースを聞いても理解者のいない孤独感からすべてのことがどうでもよくなっていました。そんな彼女は、自身をプロデュースしてくれていたイズミを殺してしまうのですが、まぁこうなってしまった世の中で殺人なんてありふれたもの。むしろひとりも殺していない人の方が少ないのでは?という感じなので、そこは省略するとしても、芸能人の辛さがわかる話になっているため興味深く読めました。

 

そんなLocaが死ぬ前にやりたいことは、路子を取り戻すことでした。人それぞれに叶えたい夢は違えど、これには応援したくなるものがありましたね。ふと、私なら何を願うだろうかと考えてしまいました。

 

 

 

感想

 

本書には初回限定でスピンオフ短篇が付いてきます。主人公は雪絵。彼女の生い立ちは複雑なので、ちょっぴり切ない仕上がりになっています。

 

地球が消滅する、人類が滅亡する、もう明日はない

 

そんなとき、彼らが思ったのは、求めたのは、愛でした。

 

印象的だったのは、「愛には裏の顔がない」ということ。どんなものにも上下左右があり、見る角度によってそれが裏だったり表だったりするだけ。同じものでも綺麗な宝石のように見える人もいれば、刃物みたいに見える人もいる。人生ガチャの運もスロットの7ほどの差しないのに、人々はそんな不確かなものに振り回され、長い人生を無駄にしてしまう。それなら、長い人生をくすぶって生きるより、短時間でも思いっきり好きに生きた方がいいのではないか。

 

そんなふうに、彼らは思い動いていくんですね。

 

おそらくもう後がないと思ったとき、私たちは凄く善い行いをしたくなる人、率先して悪さをしたい人に二分するのでしょう。もしかすると、善良な市民であった人こそ、もう好きに生きてやろうと暴れ出すのかもしれませんし、逆に悪さしかしてこなかった人は死ぬまでにいっこくらいは人助けしたいと思うのかもしれませんね。

 

しかしノストラダムスの大予言の時には、わくわくしていた私。当時、小学生で特に死にたくなるようなことはなく、どちらかというと死に怯えてすらいました。それにもかかわらず、大人になった今この手の話を想像すると「みんな死ぬなら怖くない」精神で、思い残すことも、欲も見当たらない自分に悲しさを感じます。

 

それでも最期の瞬間が迫れば、私も彼らのような気持ちになるのでしょうか。

 

もしそうなった場合、やはり友樹のようにユーモアは忘れずにいたいかな、と思います。

 

楽しい記憶も、辛い記憶も、その違いは笑えるか、腹立つかの差でしかない。それなら面白くなくてもバカなことを言って終わりにしたいと思いました。

 

 

おわり

 

 

 

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