親に支えてもらえる人と親を支えなければならない人。これは生まれたときから決まっていて、自分では選びようがありません。でも支えなければならない人はまだマシで、中には親が足かせになっている人もいます。親が重荷になっている場合は、共倒れしてしまう危険があり、悲惨です。今回ご紹介する「汝、星のごとく」は、そんな親から依存されている男女ふたりの切ない恋物語となっています。

 

<感想>

読む前は、こんなにしんどい気持ちになるとは思っていませんでした。凪良ゆうさん、どんどん進化されていてスゴイ。もう絶対にハズレのない作家だとすら思っています。後半につれ、文章の巧さが際立ってきて何度も胸を突き刺されました。

この物語の主人公は、瀬戸内の島で育った暁海と母親の恋愛事情に振り回されてこの島に移住してきた櫂。ふたりの親は共にワケアリで、この小さい島の特大スキャンダルになっています。

そんなふたりは「重荷になっている親」という共通点から互いを支え、励まし合うようになり、やがて付き合い始めます。高校を卒業したらふたりで上京し、自分たちだけの人生を歩むことをささやかな希望としていましたが、ある日、暁海の母親が不安定になって事件を起こしてしまい、彼女だけ島に残ることになってしまいます。

そこからふたりの遠距離恋愛が始まり、物語は親から離れ東京で成功する櫂と島で母を支えボロボロになる暁海の気持ちの移り変わりを丁寧に描いていきます。大金を手にし、生活に余裕が出た櫂と少ない給料でやりくりする暁海。実はこの物語の核となっているのは、「自分で自分を養うこと」なんですよね。

シングルマザーでスナックを営む櫂の母親は、店の経営から管理まですべて息子任せで、自分では泣いてばかりの何もできない人でした。男性に依存しては捨てられ、を繰り返し、櫂が稼ぐようになってからも頻繁に金銭の援助を迫ってくるような弱い人でした。

一方、暁海の母親は夫から離婚を迫れているものの拒否。その奥底には、夫に浮気された憤りではなく、別れたらひとりでは生きていく術がないという不安がありました。また、夫の浮気相手が自立した女性であることも専業主婦である母親のプライドを傷つけました。暁海は離婚騒動で精神的に壊れてしまった母親を背負いながら、毎日必死に仕事と家事をこなしています。

暁海は母親のせいで進学を諦めているため、高卒の少ない給料かつやりがいのない仕事に将来への不安を抱いています。暁海の会社では女性社員だけ給料が上がらないシステムで、手取りは14万しかありません。このまま母子ふたりで生きていけるのかという不安だけでなく、経済力のない自分と母親を重ね絶望してしまいます。

 

 

自分で自分を養える、それは人が生きていく上での最低限の武器です。結婚や出産という環境の変化に伴って一時的にしまってもいい。でもいつでも取り出せるよう、メンテはしておくべきでしょうね。いざとなれば闘える。どこにでも飛び立てる。独身だろうが、結婚していようが、その準備があるかないかで人生ちがってきますP292

 

 

これは自分の生き方に悩んでいる暁海に北原先生がかけてくれた言葉です。彼は暁海の高校時代の先生で、当時から櫂の家庭も含め、何かと心配しサポートしてくれる貴重な大人でした。そしてこの北原先生自身も過去に闇を抱え、今はひとり娘と暮らしている「孤独」な人でもありました。

どんなに母親を支えても、親は先に逝ってしまう。子供がいてもいつかは巣立つ。そのとき自分はいくつになっているだろうか。すっかり年老いて、確たる仕事も貯蓄も、保証もなく、残りの長い人生をひとりで生きる。健康なうちはまだいいけれど、病気になったとき、自分はそんなことに耐えられるだろうか。

どこか似たような境遇を抱えた北原先生は、結婚とはその理由が愛や恋以外でもいいのではないかと語ります。ひとりで生きるのが怖いもの同士が助け合って暮らす、そんなことが理由でもいいのではないのかと。そんな先生からのアドバイスを聞いて、暁海は「このままでひとりで母親を背負って人生を消耗してはいけない」と強く思います。

そもそも結婚をしなくても結婚と同じ保証があればいいのでは?籍を入れてなくても手術の同意書を書いたり、名字の変更はしたい人だけがしたり・・。こうして物語はどんどん深いところまで展開していきます。



<まとめ>
本書は暁海と櫂の高校時代~30代までの月日を描いていて、壮大です。一番苦しそうなのは、やはり20代。変わった櫂と留まっている暁海の対比が読んでいて辛かったですね。最近の小説でここまで傷口を見せてくるのって、結構めずらしいのではないでしょうか。だからこそ余計刺さるし、暁海や櫂のように困っているけれどそれを言葉にできない若者の代弁書のような一冊でした。

ネタバレはしませんが、本書の凄いところは普通の恋愛小説にありがちなお涙頂戴用の設定がごく自然に組み込まれていて、全然安っぽくないところ。そうなる理由が自然すぎて、泣かせる材として使っていないところがさすがだと思いました。なんのこと?と思った方はぜひ書店かAmazonへレッツゴーしてください。

自分の人生を自分で生きる。これは言葉でいうほど全然簡単なことでも当たり前でもない。それでもわずかな光を頼りに必死にもがいて生きていく。弱いけれど生きていく。そこに等身大の物語があると思いました。