第一章からはテーマ「長編寓話」でね 。
「青い猫と虹の一族」四章~虹の一族との日々(16)
そのオマール夫妻が、荷物で重そうなワゴン車をくりだしローズの白い屋敷へと、まずは向かい出発した。
ジョイはリズとアニーとで、白銀の丘を向かってくるサムの赤い車を部屋の中から眺めている。
ジョイは、この屋敷に来たときと同じ道を戻るのだが、その気分の晴れやかさに浮かれていた。
あのセピアの館へ帰れる。
こんなに嬉しいことが起きるなんて、いつものサム夫婦のようにステップを踏んで踊りだしたい気持ちだった。
「さあ、迎えが来たわよジョイ!」
と、リズの優しさに満ちた声がジョイの耳に届く。
後ろから
「ジョイ!風邪を惹かないでね。あ、猫も風邪を惹くのよね・・・確か・・」
ローズは、訳の分らない言動を見せる。
セバスチャンは、ただ穏やかに・・・にこにこと最後まで善良なる人であることを示している。
『「さようなら!みんな。ありがとう、みんな」』
ジョイはサイレントボイスの異名を破って
「ニャ~!」
と、鳴いてみせる。
「ニャ~!」
アニーも鳴いた。
眩しいほどに晴れた冬の白い庭へ、青い猫ジョイは歩き出した。
別れは辛かったが、懐かしい町と家と愛する友人達と再会できる喜びの方が勝っていた。
希望膨らむドライブの始まりである。
ジョイはサム・オマールの赤いワゴン車に揺られながら明日からの生活に希望を膨らませている。
少しだけ、揺れに気分が悪くなるのを感じてはいたが大して気にはならなかった。
喜びが、彼の体の悪条件を覆うほど大きかった。
リトル・サムは、初めはラジオを聴いていて根雪の道を真剣に運転していた。
ナンシーは、ジョイに時折話しかけてくるのだがラジオの音のために何を言われても聞こえない。
やがて、根雪も少ない道に差し掛かると、この二人、オマール夫妻はラジオを消して歌いだした。
こちらの歌の方がちょっと気分が悪かった。
なにしろ二人の歌は「嘆きのセレナーデ」のせつないメロディに乗せて、自作の「歓喜溢れる歌詞」を大声で楽しそうに歌う。
これには、ジョイも少々辛かった。
やがて二人のひどい歌の時間は終わり、会話が弾む。
サムが笑いながら、職場の同僚の話を始める。
「昨日、同僚のピエールが、顔にアザをつけて来たんだよ。どうしたのかと訊いたら奥さんを酷く落ち込ませてしまい、直後に思いっきり殴られたんだとさ。理由は、奥さんの顔に最近出てきた小じわに気付き、それを指摘しただけだ、と言うんでね。皆で慰めたり反省を促したりだったよ」
「へえ、そうなの」
と、妻ナンシーの気の抜けた反応だ。
しかし、サムが続ける。
「ナンシー、君は覚えていないかい?一年ぐらい前に僕も君の顔の小じわに同じことを言っただろう?」
「あ~、そうだったわね」
「でも君は、怒るどころか喜んだよね。え~と、そうそう、皮膚だって何十年もピーンと突っ張り続けて来たのだから疲れるわ。ようやくゆっくり休めて良かったね!って、自分の顔を撫ぜて『ご苦労様でした。
おめでとう』と言ったね。クスクス」
「ええ、そうよ。その通りに思うんですもの」
と、ナンシーはあどけない笑顔であっさり微笑む。
その(17)へ続く (by ゆうゆ)
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