父親がゴルフのコンペのブービー賞で、ビデオデッキをもらって帰ってきたのは、僕が高校2年の頃だった。

念願のビデオデッキ、中学の頃から欲しい欲しいと思い続けていたビデオデッキ。

歌番組のジュリー映像を繰り返し何度でも見たいという願望や、ベストヒットU.S.Aなどで最新の洋楽情報が見たかった。動く海外ミュージシャンなんて、当時はなかなか見ることができなかったもの。

しかし我が家では数年遅れのビデオデッキ・デビューである。

冬に冷やし中華を食べるような、居心地の悪さがあったものの、    

「ついにビデオがきたよ」
ビデオデッキが届いた翌日、僕はTに報告した。

「そうか、やったなぁ!」
Tも喜んでくれた。

日頃からいろいろと録画して、貴重なコレクションを収集しているTのことを、僕はビデオデッキのヘビーユーザーとしてリスペクトしていたし、何より、お目当ては彼のビデオテープだった。

なにしろ僕にはデッキはあるが、肝心のテープがない。まるでフォークとナイフを持って飢えているに等しい状況、ハングリー・ライク・ザ・ウルフである。 話し相手があってこその糸電話のように、何かテープを再生してこそのビデオデッキ、頼みの綱は笑いの琴線が似ている、親友Tしかいなかった。

「何か録画したビデオテープ」をTに所望すると、快く応じてくれた。
しかもそれだけでなく、自分の家のビデオデッキを持って僕の家に来て、AVケーブルをつないで彼のコレクションの数々をダビングしてくれるという。

どうやら彼の中でも、親友同士、同じものを共有したいという気持ちが芽生えていたかもしれない。

やはり持つべきものは友だと親友に感謝し、そこまでして僕に見せてくれようとする映像に期待した。いったい、どんな感動が僕を待ち構えているのか。

次の日曜日、Tは自分の家のビデオデッキを自転車のカゴに入れてやってきた。
そして器用に我が家のデッキと接続すると、

「さあ、何がいい?」と、
何本かのビデオテープを出してきた。

「・・・ん?」

僕は我が目を疑った。




 主人が『キースさん』に続き『親友T』との話を書きはじめた。


これは1984年、
僕が高校1年生の頃から現在まで続いている親友Tとの交友の中で、印象深い思い出を、書き綴っていこうという試みである。

こんな人間でもよかったら、誰かいい人はいないだろうか。


    ◇◇◇ 

僕には高校1年生の頃からの付き合いになる親友がいる。

昭和43年生まれだから現在は43歳。

学生の頃は柔道部で主将、副主将の仲、ずっと僕を補佐してくれて、仏の副主将として後輩たちに慕われていた。

ライバル校との練習試合で、向こうの熱血顧問と真剣勝負をして、脳震盪をおこした僕の介抱をしてくれたのも彼だ。
脳震盪なんてはじめての体験で、あちこちにまき散らした吐瀉物をTが掃除してくれて以来、僕は彼を真の親友と慕うようになった。

またTは、僕の結婚式で司会を務めてくれた。
当時はお互い21歳。
不慣れな大役を、彼はよくやってくれた。

司会を依頼するとき、僕は彼とひとつの約束をしている。

Tの結婚式では、今度は逆に僕が司会をやって、笑いと感動の渦に巻き込んでやるというものだ。

なのにまだお声がかからない。
かれこれ20年、僕はスタンバイ状態。
「どうなっているんだ」と問い詰めると、
「相手がいなければはじまらん」と返すT。
しかし彼ががそのための努力をしているのを見たことがない。

独身貴族の満喫、というものではない。
Tは昔からけっこう奥手かつ古風かつ面倒くさがりやで、それゆえに高校時代の片思いをずっと引きずっていたりする。

リアルタイムで僕に白状していたら、なんとかして、いい思い出のひとつでも作ってやったのに、この片思いを聞いたのも、おととしの正月である。

彼は今、大きな工事の現場監督として、あちこち全国の現場を受け持っているのだが、マジメ一筋で働き者、独り身の手軽さを利用されているだけで、女性と出会うチャンスが全然ない。

何しろ大酒を飲むことも、ギャンブルにハマることも、女遊びに狂うこともなく、たまの休みの日には電車の時刻表を眺めるとか、「こち亀」の単行本を全巻そろえて読破するとか、家でゴロゴロ昼寝をするという、とても奥ゆかしく地味な人生を過ごしている。

彼は男二人兄弟の長男である。
良くできた弟はとっくに結婚して、母親を安心させている。

毎年、僕宛の年賀状には「兄をよろしくお願いします」と書いてあるのだが、
このままいけば「よろしく」の意味が変わり、老後の面倒を見なければならないような気がする。
最悪の場合、僕が責任をもって看てやるけども。

誰かいないだろうか、この男の面倒をみてくれる女性は。


 
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