オーディション・シーズン最終回 | あるバレエママの告白

あるバレエママの告白

バレエしている息子のこと。それを母として観察する私が考えたこと。デンマークの暮らし、教育などなど、ふと頭に浮かんだことをそのまま書いてます。

ヨーロッパのバレエ団では、今週末、来週末にオープン・オーディションが開催されるところが多いようです。


招待を受けて参加される全てのダンサーに心からエールを送ります。


この2ヶ月、辛いことが沢山あって、側にいるだけの私も、起こっていることを脳が受け入れることが不可能で、ストレスで萎縮するのを感じました。


オープン・オーディションに出かけることは出来なかったけれど、前回も書いた通り、自分の価値をそう言う場でみせて引き抜いて貰えるとは思えないようだし、今はちょっと故障中と言うこともあり、今週末から1週間はデンマークの冬休みなので、のんびりと体を休めて欲しいし、何より、無駄なお金を使うことがなかったことは、(結果的には良かったか!)って思います。


今はとても平穏な気持ちでいます。


バレエの担当は、12月の入団試験直前に姿を消して以来不在で、日替わりのトレーナーにクラスを受けることも息子の不調の原因か?と思われますが、他の子たちは動じていないようなので、これは息子だけの問題かもしれません。


無理は絶対禁物ってことは思い知っているので、「今の状態でこのレッスンは無理ですので」とハッキリ言って、無理なレッスンには参加しないで帰宅するようになりました。


以前うっかり「今日は早かったのね〜」と言ってしまい、それが故障中のダンサーにとって、どんなにキツイ言葉なのかと気付かされた経験があり、今は何時に帰宅しても「おかえり〜」とだけ言うようになりました。


先日息子が帰宅した時もそうでした。顔を見ればその日がどんな日だったのかある程度わかるのですが、わかりませんでした。


でも、夕食を食べながら伝えられた内容で、このオーディション・シーズンで、息子がいかに成長したかを知りました。


1月にかき集めることが出来た唯一の内部契約は女子の手に渡りました。


これに関して、まだ契約を貰えていない残りの研修生たちへの学校からのフォローはありませんでした。


そこで、自分から申し出て、自分の将来について、バレエ学校のトップと話し合った息子でした。


バレエ人生を悔い無く終わらせるために、今、ハッキリさせなければならないところがあると思ったようです。


学校トップと話をして、(この人と話してもなにもハッキリしないし、意味がない)と感じた息子は、話しながら(今回のことについては、もう芸監に直接聞くしかない!)と考えたようです。


研修生のシェフが一体誰なのか?今ひとつはっきりしていない複雑なシステムがこう言う問題を生むのだと思われます。


「芸監に直訴して、自分の将来をどう考えているのか聞きます」と伝えると、そう言うことをこの時点で言い出した子は今までいなかった。バレエ学校始まって以来、前代未聞だと言われたそうです。


おとなしいけれど、時々大胆なことを思い立つ子です。


そして、実際に芸監と一対一で話す機会を手に入れたのでした。


直接話をしてわかったのは、


席が空いたらあげると言った口約束は本心だった。

女性ダンサーの席しか空きがなく、残念だが息子にあげるわけにはいかなかった。

夏休みまでに男性ダンサーの席に空きが出るかどうか今のところ見込みがない。

オーディションを受けて他のカンパニーに行っても将来戻ってくることはできる。

もし行く先が見つからなかったら、来シーズンになっても好きなだけカンパニーのクラスを受けに来ていい。

踊り続けることが一番大切だ。


と言うことだったそうです。


本人と話をして、口約束が嘘ではなかったと実感でき、心に刺さったいくつかの棘の一つがスーッと抜けたようでした。


将来の見通しがないことに変わりはないし、上の言葉だってただの気休めだったかもしれません。


ナイーブなところがある息子なのですが、モヤモヤした霧は晴れて、サッパリしたようで、とにかく良かったです。


不条理な何かに自分の将来が押し流されるてしまうのではなく、自分次第で決まるんだ!と確信を持てたからだと思います。


この話を聞いた私と主人が、直ぐに自分たちの思うところを言おうとしたら、自分の将来は自分で決めるから口を出さないで欲しいと、ビシッと言われてしまいました。


冬休みの後は、とても忙しい毎日が待っています。


今後、どこかからオーディションに呼ばれることがあっても、忙しくて出向くことは出来ないと思われます。だから、外部で採用されるってことはないでしょう。


近年、デンマーク王立バレエ団には優秀な男性ダンサーが集まってきていて、確かに他の同じくらいの大きさのバレエ団と比べても男性ダンサーが沢山いるし、誰もここから出て行きたくないと思っているらしいのは、カンパニーにとって、実はとてもポジティブななことだと思います。


女性ダンサーは足りていないようなので、女子にとってはチャンスかもしれません。


「神は乗り越えられない試練は人に与えない」


そして、試練は人を強くします。


末っ子で、甘えっ子の我が家の三男も、ずいぶん強くなりました。