航行中、喉が渇いたと言うと、一湊漁師で30代のクルーが・・この世のものとも思えない美味しいジュースがあるという。
飲ませてくれと頼むと、じゃあ今から・・といきなりカツオのトローリングだ。 ジュースはカツオで作るらしい。
何とか1匹釣り上げ、頭を落として内臓を抜いて皮をひき、包丁で骨ごとぶつ切りにしてさらに叩いてミンチを作り始めた。
それをバケツに放り込み、味噌と氷水を加え、デッキブラシの柄で思い切りガラガラかき回し始めた。
しばらくすると足元のバケツに、見た目も色もおぞましいどろどろした納豆ジュースらしきものが出来上がった。
飲むほど喉が渇きそうな魚コネクッタージュース・・
とても飲む気にはなれなかったが、あまりにも美味そうに飲む彼の様子につられて一杯。
異様な舌触りだが旨い!! 熱さも吹き飛ぶような爽快感。
たまに骨を海に「プッ!」と吐き出すのだけが面倒だった。
よく考えれば・・あのデッキブラシの柄、洗っていなかったな。
しかしこんなに「骨のあるジュース」は初めてだ。
鮮度が決め手で、釣ってすぐに船上でしか味わえないシロモノだな。
鮮度さえ良ければアタらないというものでもない。
腸炎ビブリオ菌は魚のヌメリにいらっしゃることが多い。
調理は水洗いが基本であり、まな板や包丁にヌメリや汚水が付着したまま刺身にすれば相当な確率で食中毒を起こす。
漁師料理といえば、船上や港で漁師達が豪快に刺身にして、新鮮な魚介を焼いて食べるシーンを思い浮かべる。
手法は大雑把でも食欲をそそられる。
活魚料理にしても、ヒクヒク動く頭を見て
「いや! 可愛そう~」と目をそらしても
食べてから
「何て美味しいの 魚は鮮度よね~」と
瞬時にニコニコしてますます口が滑らかになる。
いまだにギャップを感じる不可解な人間の心境だな。
不気味だが旨いジュースを2~3杯飲んでから、200m近い深場の釣りで大変美味な「ホタ」という魚が釣れた。
学名アオダイと言う脂の乗ったさほど大きくはない白身魚だ。
釣り針から落ちたホタは前のデッキのほうへ跳ねて行ってしまったが、仕掛けがもつれたので整理して魚を取りに行くと、そこで彼が釣りを中断して何か食べている。
「あれ・・ホタは?」と聞くと・・
「そこ・・」とイケスを指差す。
見ると元気よく泳いではいるのだが何か変だ。
思わず「アゲ~~」と声が出た。
半身がない!!
それでも健気にホタは泳いでいた。
彼が食べていたのはホタの刺身で、わずか1分ちょっとの間に片身だけ削いで醤油で食べていた。 凄技だな・・
「船長も食べる? 旨くてたまらんよ」とニコニコ顔だ。
足元に転がってきたので発作的に手が出てさばいたそうだ。
あまりの早業に感心してご相伴に預かったが、そのたまらない旨さに舌鼓。
イケスを見ると半身のホタと目が合った。
今‥食べている残りの半身がこちらを見ている
多少後ろめたさを感じながら食したが、その間ホタはくねくねと不自由に泳いでいた。
塩水が骨身に沁みて痛くないかな・・
あれほど旨い刺身は稀だが、悲惨な「ホタ」のことを思うと後味は悪かった。 ごめんね・・ホタ
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