高速瀬渡し船「朝凪」は諏訪之瀬島のヤマハ施設の依頼で再びトカラ列島へ向けて出港した。
諏訪之瀬島の宿泊施設に泊まった磯釣り客をガジャ島の磯に瀬渡しする。
乗船する機関長はまむし頭、それに屋久島の漁師で30代の船舶課スタッフだ。
3人で出航、客は現地で、釣り餌も諏訪之瀬島で積み込む
ガジャ島は諏訪之瀬島の近くにあり片道1時間半。
出航して海が荒れ始め、ガジャ島の磯は波が荒く瀬渡しは不可能になった。
計画変更して風裏になる海岸に一級礒がある平島に向かった。
瀬渡しが終わり船は近くのリーフの沖にアンカリング、礒ではそのまま翌朝まで夜釣りをする。
客の夕食弁当の準備は同乗したスタッフ、船尾で準備中に・・「キャベツがキャベツ・・」と意味不明の声がする。
行って見ると・・海に流したキャベツなどの切りくずに魚が群がっていた。
この辺の魚はキャベツが大好物・・と言うより、透明度の良い奇麗な海では滅多に浮遊物は見かけない。
エサと間違えて群がったのかと思えば、パクパクキャベツを食べていた。 多分・・何でも良くて、あまり深く考えずに食っているんだろうな。
やがて魚が増え、十数mの海底から十キロを超えるクエが浮上して来た。 船に群がった表層の魚を狙っているのかと思ったら、群れの下でキャベツ食っとる・・
完全肉食のクエがキャベツ食べるの初めて見たな。
晩のおかずはキャベツ・・いや、クエと決めた野人はモリを手に入水。
海に入ると危険を感じたクエは深く潜り始め、20m近い海底の大きな亀裂に逃げ込んだ。
入り口を覗き込んだら奥は深い洞窟になっていて岩に隠れたクエの顔が見えた。
いったん浮上してスキューバ潜水準備、機材がないと穴の奥まで入れない。
野人は冬でもない限り深い冷たい海でもウェットスーツは着ない。 スーツは水圧が増すほど浮力が失われ浮上感覚が鈍り、5キロの鉛も余計だ。
安全第一に考えるなら常識は着用だが、この海での安全はサメとの遭遇に備えて身軽なこと、スーツを着れば海中で機敏な動きが取れない。 つまり逃げるだけでなく、場合によっては戦うことも想定している。
野人は人間ではなく野生動物から身を守る為、あるいはやむを得ず戦う為に武術を身に着けた、だから編み出した独自の空手技は試合ではすべて反則技。
海で生きる人間だから当然水中も想定、だから「水流護身術」、水中で通用する技は陸でも通用するがその逆はほとんどない。
素早く普通のパンツ一枚になりエアタンクを背負い海底洞窟に向かった。
穴の中のクエは野人の姿を見るとさらに奥へ向かった。
迷わず突入した野人はゆっくりと奥へ追い詰めるつもりだったが奥がない。 ないと言うより奥が深く行き詰りもなく、迷路のようになっている。
クエを追いかけさらに奥の迷路に入ったが、ここで判断を誤った。
背後を確認しながら先へ進まなければ元の場所には戻れない。
もっと単純に考え気にしなかったが、この穴は単純どころか複雑。
迷路でクエの姿を見失った時にクエをあきらめ戻ろうとしたが、帰路がさっぱりわからない。
何故真っ暗な洞窟を進めたのか、理由はリーフの上の切れ目から陽光が差し込んでいたからだ。
光を目指して浮上したが、亀裂が狭くて海面に上がれない。
再び潜水して別の水路から浮上、それを繰り返しながら危機を悟った。
空気の残量がほとんど残っていないのは、10分も残量があれば十分と、使用済みタンクを使ったからだ。
水深もたいしたことはないが手間がかかり過ぎた。
呼吸が苦しくなったので呼吸を止めて節約しながら出口を探した。
上から脱出出来る可能性は低く海底近くの迷路を進んだ。
苦しさが限界に近づいた時、陽光が輝きを増し出口が見つかった。 あと1分も持たなかっただろうな。
予備空気も使い果たして空気の残量はゼロだった。
この時はタンクに残圧計もコンパスもなく、夏はウェットスーツさえも。 身軽さを重視すれば水深計とナイフ以外は余計な装備だったからだ。 自分の空気使用量と水深と滞在時間から、およその空気残量はわかり、足りなければ予備空気のリザーブバルブを使う徹底して水の抵抗を消す省エネ装備だ。
危機に陥って身に沁みたかと言えばそうではない。
その原因は基本的な確認を怠ったからであり、いついかなる時でも熱くならず沈着、現実の問題解決は「だろう」ではなく「理」で判断。
幼少から身に付いてはいるが未だ未熟、このことを肝に銘じた。
最後は光に導かれた気がするが、生き残ってよかった
まあ、敗因は、クエが食いたくて食いたくてたまらなかったこと・・・・殺気だな。 それと・・
クエの奴が 「クエ 食え クエ~~」と野人を誘ったことだな。 頭の中はクエ一色、理のかけらもなかった。
空腹の本能と言うより、食い意地に負けて判断を誤った。
色即是食う~ 食う即絶対・・食いあらためる
は~~~い 無事浮上 海面からまむし頭撮影
絶壁だな・・
非常識 無茶苦茶な23項目・・
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