復元力の強い野人に休日は必要なく、自宅も必要なくなった。
鳥羽の自宅を引き払い、当時の荷物は会社の倉庫に放り込んだままだ。
知人から今にも倒れそうな壁も屋根も波打った木造倉庫を無償で借りて事務所にして住み込んだ。
20畳の一角にブロックを敷き、畳を乗せて6畳間を作り、書庫とテレビを置いた。
終日テレビを入れっぱなしにして仕事する習性は20年以上続いている。
居ながらにして世界や全国の地方の最新情報が届くからだ。
面白い情報が流れると自動的に耳が捉え、仕事を中断してテレビに集中する。
映像は新聞よりも早く詳細で、そこから得た情報はノート数冊分にもなる。
気になる情報はさらにネットで調べ、その地に出向いた。
テレビを見ながらの仕事など非常識でそのような人もいないだろうが、情報こそ必要な財産であり、最も効率の良い野人の常識なのだ。
回線も2カ所引いてあり、他局を同時に入れっぱなしにする予定だった。
その程度で集中力が欠けることはなく、企画考案や原稿を書くには何の問題もなかった。
個人差はあるだろうが、問題なければ「ながら仕事」のほうがはるかに効率が上がる。
簡易トイレは外にあり小さな流しもあったが風呂は銭湯だ。
夏の銭湯は暑くて面倒なので、深夜になると裸で外に出て頭からバケツで水をかぶった。
小さな地震の度に、真っ先に潰れると信じた社員や友人から電話が入る。
駐車場だけは広く、昼夜を問わず人が訪れた。
自らの休日を設定することなく、お盆休みも正月休みもなく365日24時間勤務で適当に息抜きしながらこの10年を過ごした。
続く・・
海底二万マイルとクストー