事務所兼自宅には就寝時もカギなどかけたこともなく、窓は周年開きっぱなしで、野人が寝ていれば来客はあきらめて帰って行った。
熟睡していても殺気や危険を感じれば昔から必ず目覚めるように出来ていたので施錠は必要ない。
それに盗られて困る貴重品も家具もない。
このセンサーのおかげで東シナ海では何度か命拾いもした。
布団も必要なく、疲れたらコタツや畳で知らないうちに寝ていた。
石の上だろうが木の上だろうが野宿だろうが熟睡出来る。
目が覚めると窓から入って来た猫がお腹や首の上で寝ていたことも何度かあった。
この猫は、野人が首を痛めてキツかった真冬、窓から侵入、パソコンに向かう野人の肩に飛び乗りいきなり首に巻き付いて温めてくれた。
この「エリマキ猫」に名は付けず、いつも「おい・・」と呼んでいた。
エサは与えた事はないが毎日のようにやって来て野人の首にぶらさがって眠り、イビキま
でかいていた。
青バナをたれるのは閉口したが、まあ気にもせずぶら下げたまま仕事していた。
来客中も遠慮なく窓から入って来ていきなり首にぶら下がるので相手は当然驚く。
「な・・何ですかそれ・・」と聞かれる度に、「気にするな」と言っておいた。
くしゃみする度に青バナを飛ばすので、ヒク・・ヒク・・ときたら首を掴んでグイ!と横向けると「クシュン!」・・ハナはそちらへ飛んでゆく。
その度に客人は笑いをこらえていた。
ある日、深夜いつものように外に出て裸で頭から水をかぶり部屋へ入るとそいつが待っていた。
肩まで登ろうと構えるので・・
「おい・・まさか爪立てて登るはずないよな、裸なんだよ、ハ・ダ・カ」
この鼻タレ猫は気にせずバリバリ~と爪を立てて肩まで登って来た。
首は治ったし、夏は暑苦しいのだが、この猫は野人の首を温めるという使命感に燃えていたようだった。
「こら、バカタレやめんか~!痛い~じゃん!」と悶絶しても手遅れだった。
猫は衣服と裸の区別がつかないこともわかった。
皮膚に穴が空き血は出たが、済んだことは責めても仕方がない。
客には何が起きても気にするな・・と言い続けてきたのだ。
続く・・
2008 6月
青信号を渡る猫
http://ameblo.jp/muu8/entry-10111038729.html
2008 10月
努力が苦手な野人の性根