春から夏にかけて外洋では飛び魚をよく見かける。
黒潮に乗って北上、沿岸や湾内にも入って来る。
常に表層を遊泳し、背は鳥に見つかりにくい保護色の藍色、腹は大型魚に見つかりにくい銀白色をしている。
つまり空からは海の色、水中からは空の色に近い。
これらの特徴を持つものを「青魚」と言い、アジ、サバ、イワシ、マグロ、カツオ、ブリなどが代表だ。
肉質は早く泳ぐほど赤身が多いが、青魚が赤身魚とは限らず、このトビウオやカマスなどは静止していることが多いせいか白身魚に分類されている。
赤身か白身かはあくまで食材としての分類だ。
静止はカマスの中層に対してトビウオは表層が多い。
特に外敵のいない夜になると同じ白身で青魚のサヨリ同様表層を優雅に漂う。
日没と同時にプランクトンが浮上、イワシなども一斉に表層に集まるからだ。
屋久島に住んでいた頃にやったことがあるが、この習性を利用したトビウオ漁はかがり火に集まって来た飛び魚を網で簡単にすくい捕る。
トビウオはイワシやサバ同様マグロやカツオやカジキなどの大型肉食魚に追われる運命。
ここからがトビウオの飛び魚たる由縁で、一気に空中へ飛び出して逃走する。
理由は簡単で、トビウオはトビウオなりに考え進化したからだ。
飛行距離が伸びなければ着水地点を読まれ餌食になってしまうしスピードが無ければ水中から追われる。
高く舞い上がるのは距離が伸びず得策ではなく、水面スレスレを猛スピードで飛ぶ道を選んだ。
その為に胸鰭は鳥の羽根のように発達、もう一つが空中に飛び出す初速原動力になる強靭な尾ビレだ。
しかしさらにトビウオは考えた・・・
海は、特に外洋は必ず波が高く低空飛行の障害になる。
そこで飛び太郎はさらに深く考えた・・・
トビウオの尾ビレは下半分が極端に大きく強靭に出来ている。
これは大魚に追われて空へ脱出、着水する時に下の尾ビレから水に入り、その瞬間に激しくテールウォークして再び飛び立つ為に発達したものだ。
尾ビレの上部の空気抵抗を出来るだけ抑えて水中に動力効率を集中する。
これなら予定飛行距離半ばで失速しても、波に不時着しても心配ない。
しかし、着水地点を誤り船に飛びこんで来る夏の虫のおバカもいる。
野人はトビウオから物理学の知恵を学び、食べる時はいつも敬意を払いながら食している。
この「トビウオのたたき」はその敬意の表れだ。
特に意味はないがモチモチして美味しい~