サメに食われた手編みのセーター3 | 野人エッセイす

野人エッセイす

森羅万象から見つめた食の本質とは

カンカン、ガキ~ン!と鋭い音が響き渡った・・

戦いは長くなるのでこれくらいにしておくが、二人ともこの真剣勝負が大好物だった。

全神経を集中して戦うと身が引き締まる。

顔は笑いながらも打ちこみは鋭い。相手の腕を信頼しているから出来ることだった。

時には怪我もし、血も流したがたいしたことではなかった。

越中は小、中、高と番長で、中学は体操部主将、高校は陸上部主将で茨城県記録保持者、反射神経とパワーは尋常ではない。アマチュアボクシングでも4戦4KOだった。

真田広之を大柄にしたような男で、各地から子分が訪ねて来たが、女性にも人気があった。

その越中がある日急に行方知れずになった。書き置きも何もなくいなくなったのだ。

越中のカバンはないのだが、越中フンドシやらガラクタ類は放りっぱなしだった。

まあ死ぬような男ではないから放っておいたが、その越中が3ヶ月後に帰って来た。

色は真っ黒で精悍な面構えだが、手の甲は傷だらけだった。

そして目の前に「札束」をどんと置いた。どうも長期出稼ぎに行っていたようだ。

その夜は越中と二人で寿司屋に焼き肉屋を回りドンチャン騒ぎだ。

越中は清水港から「カツオ一本釣り船」に乗ってソロモン諸島にまで行っていたのだ。

話が急に決まり、その夜に出航だったので遺書を書く時間もなかったらしい。

電話もよこさないいい加減な奴なのだ。

越中の腕力は強烈で、瞬く間に出世して漁師の№2になり、舳先から2番目でカツオを釣り上げていたようだ。

狭い船中で刃物沙汰にもなったようだが、越中が負けるはずもない。

腕にシャツを巻きつけて出刃包丁に立ち向かって勝ったが手の甲に傷を受けていた。

その越中が両手をついて謝った。