酔っ払ったマムシのあくび | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

野山はマムシの季節真っ盛りになってきた。

まむしドリンクに代表されるように、マムシは生薬名「反鼻」として漢方薬の材料にもされている。

可愛そうな話だが、昔はよく捕まえて酒に漬けられていた。

切り傷や打ち身に用い、飲用にもしたが、臭くて鼻をつまんで飲んだ割にはあまり効かなかった。

 

しかし小さい頃からマムシ酒やガマの油には馴染みがあり、ガマがタラリタラリと流す油汗はどんな傷も治すと信じ込んでいた。ガマが汗かくはずもないのだが。

 

サラリーマン時代、捕まえたマムシを酒に漬けようとした。

水を少し入れた一升瓶の中で一ヶ月ほど汚物を吐かせるのだが、たまに汚れた水を入れ替え、外で水浴びさせる。

それを会社でやるものだから皆一斉に逃げて行く。

 

終わると首を掴んでビンに戻す。小ぶりだったのでワインのビンに漬けることにした。

焼酎を注ぐと、何とマムシが尻尾でビンの底に立ち、コルクとの隙間で呼吸している。

心を鬼にしてビンを逆さまにし、数分後に元に戻すとまだ頑張っていた。

 

苦行一ヶ月のマムシのさらなる根性に感心し、そのまま30分頑張ったら逃がしてやると約束、やがてマムシの生命力に軍配が上がり、マムシとの約束どおり開放することにした。

ビンから取り出して、「俺が悪かった」と謝るとマムシはあくびをした。

マムシのあくびなんて初めてだ。

よく観察するとマムシは完全に酔っ払っている。

 

指で頭を「コン!」と叩く度に大きく口を開けて「クァ~!」とアクビ・・30cmヨロヨロっと這ってはまたアクビする。吐く息も酒臭い・・尻尾に触れるとビクッと反応するので酔いは下半身までは回っていないようだ。

マムシは8回もあくびして、やがて千鳥足ではなく千鳥腹で草むらに消えていったのだが、何とも面白いものを見せてもらった。もう2度とマムシを酒に漬けることもないだろう。

 

翌日、部下の女性からマムシの助命嘆願があった。

彼女はマムシの水替えの度、真っ先に逃げ出していたが、たまにマムシが夢枕に立って命乞いすると言うのだ。

 

「マムシは急性アル中になったかも知れん」・・と思いつつ前日の話をしてあげた。

彼女は大喜びで万歳三唱して、「良いことしましたね!きっとマムシはお酒を持って恩返しに来ます」と言うので、「マムシにお酒は重たすぎるから代わりに君が持ってあげなさい」と答えた。

 

20代の頃、捕まえたマムシの入れ物がなく、大きな花瓶に入れ、空気穴をあけたアルミホイルでふたをして床の間に置いた。翌日見るといない!ホイルの穴をこじあけて逃げ出したみたいだ。

寝床をめくり、押し入れまで捜したがマムシは行方不明だった。 会社でその話をしたら、それ以来マージャン仲間が来なくなった。

 

まむしを必要以上に怖がることはない、人を襲うこともなく、ジャンプして飛びかかることもない、むしろ嫌がって逃げて行く。踏みつけたりして噛まれてもあわてずに毒を吸い出し、ゆっくり病院へゆけば良い。

完全に吸い出す事が出来れば痛くも痒くもない。

 

食べ物が豊富で、マムシが生息しているということは自然が豊かな証拠だ。

マムシは毒蛇だからその土地の自治体の許可なく飼育することは出来ない。

しかし、教材としてマムシの館を始めとする危険動物、昆虫、海の毒魚、毒草など「危険生物博物館」を作りたい。子供達を安全に自然の中で遊ばせるには必要な施設だと思っている。