古代イチジク イヌビワ | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは


山ではイヌビワの実が色づき始めた。

イヌビワはクワ科イチジク属の落葉樹で関東以南、沖縄まで分布している。

秋には紫黒色に熟し毎年食べている。

摘むとイチジクのように乳白色の樹液が出る。

実の形もはるかに小さいがイチジクにそっくりだ。

万葉集にも登場し、大供家持の歌が残っている。

当時は「チチ」と呼ばれていた。今でも地方では「チチモモ」と呼ばれ親しまれている。

木の実山菜図鑑でもあまり人気はなく、机上の理論専門の学者は、「美味ではなく、人が食べるものではないという意味でイヌと言う文字がついた」」と書いてある。

じゃあ・・毎年好んで食べている「野人」は人間ではないということになる。

確かに木によって味は違うが、旨い木のイヌビワはたまらなく旨いのだ。

黒く熟し、先端から蜜が出ている実は皮ごと食べてもねっとりと甘くて美味だ。

まさに生命エネルギー溢れる「ワイルドイチジク」なのだ。

イチジクの原産はアラビア半島で栽培された最古の果物と言う説もある。

聖書にも出てくるようにアダムとイブがその葉を「パンツ」代わりに使っていたくらいだ。

江戸時代に渡来し、親しまれてきたが、それまで日本人はこの「チチ」を多食していたように思う。

数千年前までは野菜も果物なく、山の栗や木の実の採集の時代だ。

甘い実は野いちご同様、秋の野生の柿やアケビやイヌビワが唯一の糖分補給のご馳走だったのではなかろうか。

聖書の時代は、日本は縄文時代から弥生時代へ移行する時期だが、アラビアの大粒イチジクに対して日本人は小粒のイヌビワを食べて頑張って来たのだ。

ただ・・イヌビワの葉は、パンツにするにはあまりにも小さすぎてはみ出てしまう。

そう思いながら古代に思いを馳せて毎年イヌビワを食べている。