東シナ海流27 対決 切石港 2 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

近づいてきたアメフト外人二人はそのまま後ろを通り過ぎて、やや離れた珊瑚岩の方で泳ぎ始めた。

「あいつら泳いどる・・」と坂井さんが言ったが、「別に釣りの邪魔しなけりゃ放っておけばいい」と気にもしなかった。ところが二人は徐々に近づいてきて、釣竿の先でバシャバシャと泳ぎ始めたのだ。人相の悪いほうはこっちを見ながらバタフライまでやっている。坂井さんは唖然としていたが、「邪魔・・しとるわ。ワシら完全にナメられとるなあ」とぼやいた。「坂井さん・・その出刃包丁とって・・」と言ってエサ切り用の出刃をもらい、手に取ると二人はこちらをじっと見ていた。片手にサオ持って座ったままそれをいきなり二人に向かって投げた。出刃包丁は2mくらい離れていた二人の顔と顔の中間を「ビュン!」と通り抜けて海に落ちた。まさかいきなり出刃が飛んでくるとは思わなかったのだろう。アメフト二人の表情が凍りついた。坂井さんは「外れた!・・もう一本車にあるけど取って来ようか?」と言う。「当たっていたらエライことじゃ」と言うと、「え~!わざと外したん?凄い腕やなあ~!」と感心する。「そんな器用な真似出来るかい」と笑うと、彼はじ~~っとこっちを見て・・・無言だった。海中の二人はあわてて服を脱いだほうに向かって泳ぎ始めた。また次の包丁が飛んでくると思ったのだろう。「さあ、仕上げや」と腰をあげて彼らのほうに向かった。「今度は、な、何やる気?」と聞くから、「そこで釣りやっていて」と言って適当な岩を探した。頭の大きさほどの岩を持って彼らが服を脱いだ岩の上で待ち構えた。二人が近づくのを見計らってその岩を頭上に持ち上げいきなり投げ下した。岩はわずかに逸れて二人の近くで「ドッブ~ン!」と水しぶきをあげた。「オ~!ノ~!クレイジー!」と叫びながら二人は泳いで逃げ出したが、再び大きな石を持ってゆっくり追いかけ、上がろうとする場所で待ち受けた。二人は沖へ避難してなかなか近寄って来ないので、石の上に腰掛けてタバコ吸いながら待っていた。しばらくして手招きすると、二人はホッとした顔で帰って来た。別に許したわけではなく「手招き」しただけだ。射程距離に入ったところで立ち上がり、再び石を構えると仰天、今度は逃げる気力もないようで、「ヘルプミー」と手を合わせた。彼らは心から悔い改めて「懺悔」しているようだったので結局許した。謝るくらいなら最初から悪戯を仕掛けなければ良いのだ。釣り場に戻り、再び二人で釣りをしていると服を着替えた彼等が来て、英語でなにやら言っていたが、海を見たままうなずき手をあげてさよならした。酒井さんが「あいつら・・何て言っていた?」と聞くから、「言葉、知らん・・」と答えたらまたガックリ。アメフトのおかげでその日はさっぱり釣れなかった。話は瞬く間に島中に広まった。坂井さんは、「構うな、相手にするなとあれほど自分で言ったのに、無言でいきなり出刃包丁投げるし、待ち構えてデッカイ石は投げ込むし・・やることがわからん~! そりゃあもう、あの人のエゲツなさは天下一品よ!」と面白可笑しく話していた。

色んな人に理由を聞かれたから、「堂々と仕掛けてくれば堂々と二人まとめて相手したが、釣りの邪魔をしたからこちらも泳ぐのを邪魔しただけ、別に殴ったわけでもないし、喧嘩もしとらん、笑って手を振って別れたよ」そう言うと皆はうなずいて納得していた。言葉は通じなくてもコミュニケーションは大切だ。とにかく冷戦は平和的に解決、次の船便で外人二人は島から去って行った。