地下水の低下と農業の行方 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

地球白書によれば、世界の農業においては1トンの穀物を生産するのに1000トンの水を必要としている。水位が元に戻らない地下水の過剰汲み上げ量は年間1600億トンで、これは穀物1億6千万トンの生産量に当たり、4億8千万人の食料に匹敵する。中国は1980年以来、経済が急激に拡大、ほぼ全域で地下水が低下している。穀物の40%を産する華北高原では、地下水が年に1,6mも低下、食料輸出国は輸入国になってしまった。

地下水位の低下、海洋漁獲量の頭打ちは次のことを意味する。数十年間に国連の予想通り世界人口が増え続けるなら、食料の供給は不可能に近く、さらには森林減少、動植物絶滅による生態系の崩壊などが追い討ちをかけるだろう。水を使わない農業への転換が必要だ。雨量の多い日本ではピンと来ないのだろうが、その理論で日本人は後進国の農業指導に当たっている。石油と同じく真水資源にも限りがある。森林はどうやって水を確保するのか、どうして砂漠化が生ずるのか、少し考えたらわかりそうなものなのだが、ため息が出るばかりだ。何十mもの深さから地下水を汲み上げる植物など地球上には存在しない。

最近はオーガニックやロハス、エコ何とかなど、野人にもよくわからない言葉が流行っているが、あまり好きではなくピンとこない。外国かぶれも程ほどにして、地球や人類の歴史、日本の食文化から学んだほうが余程役に立つ。野人も海外の仕事が多かったから英語は少しくらい喋れるが、意思の疎通に必要だから使うだけだ。それらの横文字の世界では、無農薬有機の野菜が自然で体に優しいと信じ込まれているが、「人工的なエサ」を与えれば霜降り牛や養殖魚と何ら変わることなく好みの味が作り出せる。全植物は自然界の仕組みの中で生まれた有機物で育っている。それを微生物が無機物に分解しなければ根から吸収出来ない。化学肥料は微生物を必要としない無機物であり、人が作る有機肥料はミネラルなど多彩な味を持った有機物、微生物が分解すれば無機物とミネラルが残る。つまり化学肥料にミネラルを加えれば同じ事だ。「にがり」や薄めた海水で同じ野菜は作れる。微生物を必要としない工場野菜でも有機と同じ味の野菜は作れることになる。栄養過多の人間が病気になるように、理に適わない野菜もまた病気や虫の猛攻を受ける事になる。それは肥料だけでなく、土壌の在り方、栽培のやりかたにも問題があるから成るべくして成るということになる。植物に必要なものは「栄養分」だけではない。人の体が「栄養学」だけでは支えきれないように。人に「気」があるように植物にもある。その気は地球本来の健全な大地から得るものなのだ。掘り起こして草もないような土からは最も大切な生命エネルギーを満足に得る事は出来ない。だからこそ植物は必死で「子孫を残す」為に環境を整えようとする。虫や鳥や微生物も仕組みの中で生きる為に懸命に働く。それをまた破壊するのは愚かな事だ。野人は化学肥料の野菜も有機野菜も霜降り牛も養殖魚も加工食品もこだわりなく食べる。添加物もそれほど気にしないし自然食主義でもない。ただ、本質を見失い、大半が一方方向へ向かって行くのは見ていられない。このまま行けば地球環境の破壊は目に見えている。農業の迷走は健康、環境問題だけでなく、後継者不足、過疎化問題まで影響を及ぼしている。