美味!「ネズミこっち」と言う魚 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

正式名称は「ネズミゴチ」だが、同じ仲間の「ヌメリゴチ」とそっくりで、釣り人の間では双方とも「メゴチ」と呼ばれている。ただしメゴチと言う魚は他にいるのだが。この魚がまた嫌われ者で、釣り人の9割の人が捨ててしまう。特に関西では「ガッチョ」とバカにされて防波堤でよく干からびている。逆に関東では天ぷらの食材として重宝されている。どちらにせよ釣り人には歓迎されないキス釣りの外道なのだ。狙って釣る人はまずいない。何故それほど嫌われるのか、別名「猫またぎ」と言う名前までもらっている。実験するとわかるのだが、猫がその臭いを嗅ぎ、目をしばつかせて嫌な顔をしながらまたいで通る筋金入りの「猫またぎ」なのだ。生臭さを気にしない猫でさえ気にする臭さで、おまけにエラブタから鋭いトゲが突き出ている。どんな魚も皮膚をぬめりで細菌からガードして、それが生臭さの原因になっているのだが、この魚のぬめりの臭さは半端ではない。粘っこく糸を引くうえに強烈に臭いのだ。しかも手を洗ってもなかなか臭いもぬめりも落ちない。釣具にはこの魚をはさむ専用の「メゴチバサミ」まである。キスだと期待したらヌメリゴチ、がっかりされて憎まれて嫌われて当たり前なのだが、この魚は滅法旨い魚なのだ。ヤマハ元社長の川上源一はこのヌメリゴチの「握り寿司」が大好物だった。刺身にしてもどんな魚にも引けは取らない。臭いのはぬめりと内臓だけで、身は白く透き通り絶品だ。鮮度の良い魚で「身が生臭い」魚なんて存在しない。調理の時に魚の内臓やぬめりの臭いが包丁やまな板に残るから臭いのだ。しっかり洗えば何の問題もない。寿司ネタに大型でぬめりのない「マゴチ」があるが、それと比べても見劣りなどしない。むしろ旨いかも知れない。釣り味はキスに敵わないが、天ぷらにすれば一目瞭然だ。食べさせると必ずヌメリゴチに軍配が上がる。長い間天ぷら船を運航していたじいさんも保証するくらいに間違いない。余るのは決まってキスのほうなのだ。キスの天ぷらは軽くて非常に旨い。ヌメリゴチは繊維質で味も濃厚で旨い。軽さか歯ざわりかと言う事になる。本来は比べられるものでもないのだが、比べれば必ずキスの天ぷらには勝つようだ。寒ボラの刺身が天然のマダイに勝つようなものだ。関東ではヌメリゴチを「味」で重宝し、関西ではその味よりも、臭さと、がっかりする釣りの外道として嫌った。つまり無条件でガッチョが嫌いなのだ。味を知る人だけが大切に持ち帰っている。その反対に関東では嫌う「ベラ」を関西では重宝している。うどんのつゆにせよ、うなぎの焼き方にせよ、すき焼きにせよ、魚にせよ、西と東では味覚も価値観も異なるようだ。