スイミン愚物語 スポーツマンヒップ4 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

年が明けてから週に2日のスイミングクラブ通いが始まった。

夜の一般のフリーコースは結構な人で賑わい、ゆっくりとウォーミングアップしてもすぐにつかえてしまう。

オバちゃんやオッサンが列をなしてゆっくりと泳いでいたがこれでは練習にならない、もともと練習嫌いだから言うのもおかしいのだが・・

トレーニングはともかく、せめて水をしっかりと捉える感覚は必要だ。

クラブのほうでトレーニングしたい人の為に1コースをトレーニングコースにしたがコーチはつかない。

そこで一人で勝手に泳いでいたらいつの間にかメンバーが10人くらい集まり後をついて来るようになった。

野人がクロールすればクロール、背泳すれば皆それにならい、50m泳げば全員50mついてくる。結局リーダーにされてしまった。

ついて来れなくなればリタイアして邪魔にならないように隣のコースへ行くという暗黙のルールが出来上がり、部分的に参加する人もいた。

本当は自分の為にマイペースでフォームを調整したかったが、皆の期待がかかってしまったので、配分も考え技術指導もした。

「ハイ、これからクイックターンの練習!」とか・・

家では筋トレして汗をかくのが嫌いだから軽いフットワークと空手の動き、呼吸法を毎日15分くらいやった。

クラブには20代後半の、元バタフライで県で2位だったというコーチがいて、何かと時間を見てアドバイスをしていた。

ある日変則的なクイックターンの練習をしていたら、上から見ていて「いったい何の練習しているんですか?」と聞いてきた。

ターンした瞬間に片足が隣のコースにはみ出るのだ。

「機密だが仕方ない、教えてやる、水中での蹴りだ」と答えた。

「何のために?」と言うから、「競り合いになった時の秘技・・」。

「まさか・・それで隣の人を蹴るつもりでは・・?」と驚くから「そう!そのまさかだ、まあ出さないに越した事はないが」と答えた。

「上から審判が見ていますよ!」と言うから、「だから電光石火の蹴りの練習してるんだ」。「マスターズに出場するんですか?」と聞くから、「そんな面倒なものには出ない、れっきとした国体予選の50m自由形だ」。

そう言うと彼はしばらく考えてから、「それなら公認の50mプールですからターンはありません」・・ ・・・沈黙が流れた。

噂はコーチの間に広まり、女性コーチ達は例によって「え~!うっそ~!」の合唱だったらしい。

コーチ達からは「本気でそんなこと考えていたんですか?」と声をかけられた。

真相を言うなら「冗談」に決まっている。話を面白くしただけだ。

ただ・・ターンがないことには気づかなかった。

考えたらクラブは25mの室内プールだったのだ。

仕方ない、正攻法でいくしかない。

その日から大学時代の本を引っ張り出して「研究」に入った。

久しぶりに開いた本は「流体力学」だった。