昔桑の実 今マルベリー | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

桑の実が熟し始めた。毎年5月から6月にかけて黒く熟す。子供の頃は良く食べたが、口の中が紫色になるので食べたのがすぐにわかる。ドライにして食品着色料にも使える。名前の由来は、日本では蚕の食う葉(くうは)から転訛してクワの名が生まれたと言われている。 クワの葉はかいこの唯一の飼料で、蚕はまゆを作り、そこから絹糸をとってシルクになる。絹は中国文化の代表だが当時の地中海沿岸には絹が無かった。絹は砂漠を通りヨーロッパへ運ばれシルクロードが出来た。日本には朝鮮半島を経て、奈良・平安時代頃に渡来した。クワは中国と朝鮮半島の原産だが、日本に野生するヤマグワも飼料として用いられていた。桑は漢方薬としても重宝され根から実まで生薬名がついている。根は桑白皮。葉は桑葉、実は桑タイと呼ばれ、利尿、高血圧予防、滋養強壮などに使われている。桑の若葉は山菜としても利用される。おひたしや天ぷらが良い。桑茶としても販売されているが、昔、ヤマグワを枝ごと火であぶり乾燥させ、切ったばかりの青竹の筒に入れて棒でつついて砕き、熱湯を注いでそのまま飲んだことがある。この野趣溢れるお茶を「山茶」と言う。やや青臭いがなかなかイケるものだ。桑の実は生食の他、ジャムや料理のソースにしても良い。大量にジャムが出来るからお湯を注いで飲むと非常にコクがあって美味しい。レモネードみたいだが、飲んでも「クワネード」になる。

英名ではマルベリーと呼ばれるが、こちらのほうが何となく旨そうな名前だ。ベリーと言えばベリーだが丸くはない。これだけ色んな効果や使い道のある桑の木は蚕だけではもったいない。もっと身近に植えて活用しても良いのではないだろうか。健康志向ならなおさらのことだ。