万葉集の中の「オケラ」 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは


農園のオケラが元気よく育っている。

オケラと言っても、あのアメンボとお友達のオケラではなく植物だ。

「山でうまいはオケラにトトキ・・」と里謡にもなっているように旨い山菜の代表でもある。

しかし、ワラビやゼンマイ、フキやタラのように一般的ではなく流通もしていない。


植物に係わり合ってから一番情熱を持って探し続けた一つがこのオケラだった。

地域によってはよく見かけられるのだが、県内には少なく、初めて山で見つけた時に一番嬉しかった植物だ。

他に情熱を持って探したのはマタタビとサルナシと、山のアスパラと呼ばれるシオデくらいだった。

実物を確認してしまえば至るところで見つかるようになったが、このオケラだけはいまだに群生地は2箇所しか知らない。

県内の山道を調べ尽くし植物群生マップも作成したこともある。


これまで関わった植物の中で、このオケラほどストーリー性の高いものはない。

魚では「ボラ」だが、植物では間違いなくこの「オケラ」だ。

植物の好きな人はネットでオケラのルーツを調べてみれば面白い話がいくらでも出てくる。

オケラは万葉の時代には「ウケラ」と呼ばれ、その語源は今も定かではない。

万葉集にも登場するが、文学の世界だけでなく、薬用、食用、様々な行事などに使われてきた。

除魔招福を祈願する「オケラ祭」もある。


オケラは里山ではあまり見かけられず、山地にひっそりと自生している。

花を囲むガクのようなものは魚の骨そのものだ。

今でも野草の中ではこのオケラの花と葉の形がなぜか一番好きだ。

オケラは古代のロマンを連想させてくれる。

日本人の暮らしに深く関わってきたのだろう。


万葉集に、詠み人知らずの歌が3首ある。


1、恋しけば 袖も振らむを武蔵野の うけらが花の色に出なゆめ


2、我が背子を あどかも言はむ武蔵野の うけらが花の時なきものを


3、安宵可潟潮干のゆたに思へらば うけらが花の色に出めやも


無粋人なのでまったくわからないが、恋心を読んだ歌のようだ。たくさんの花の中からオケラを選んだのは、派手さもなくて目立たず、かと言って地味でもなくしっかりと自己主張をしている、そんなオケラに重ねて女心を切々と詠ったものだと、そのような解釈がついていた。

そんな女性がいたら・・・ぜひともお願いしたいものだ。

一度でいいから言ってみたい「僕のオケラになってください!」と。