阿刀田高『ナポレオン狂』 サイボーグ009にも登場するサン・ジェルマン伯爵
友人から薦められてこの文庫本を古本屋で40年前に買ったのですが、表題作だけ読んで「なるほど、そんな感じのお話ね」であとは放置してしまってました・・。当時はミリタリー系のSF・冒険小説に夢中になっていて、ミステリー系はあとで、みたいな気持ちだったのです。今回ようやく完読したのは、前にレビューした『サイボーグ009トリビュート』を読んだあとに009熱が高まり、サイボーグ009全集(メディアファクトリー版全28巻)のうち、普段あまり読み返さない15巻『海底ピラミッド(前)編』~28巻『時空間漂流民編』までを再読したところ・・上述の海底ピラミッド編にも時空間漂流民編にも、「サン・ジェルマン伯爵」という人が物語のカギを握る役割として登場します。そして、ピラミッド編の後編の巻末にはサン・ジェルマン伯爵とは何者かを解説するマンガが書き下ろしで追加されていました。そのエッセイ風マンガの中で石ノ森氏が、ベッドで就寝前の読書として「新しい直木賞作家か・・」と阿刀田高『ナポレオン狂』の本を開き、「サン・ジェルマン伯爵考? へへ、書いてる書いてる」とつぶやくのです。つまり短編集『ナポレオン狂』の中に『サン・ジェルマン伯爵考』という短編も収録されていることが読者にわかりますなんだ、あの文庫本にそんな短編も入ってたんだと早速本棚の奥から『ナポレオン狂』を発掘して、最初から読み返してみました(前置きが長くなりました笑)以下に、特に面白かったものを紹介します■ナポレオン狂(表題作) 主人公は、あるナポレオンのファンと知り合う。その人はナポレンに関するものはすべてを蒐集するマニアであることを知る。 また別の日には、自分はナポレオンの生まれ変わりだと自称する人が主人公の前に現れる。 主人公は後者を前者に紹介することを思いつく・・ すべてを語らず、不気味な続きを読者に想像させるテクニックとはこれか、と改めて理解できる良質の短編と思います 藤子不二雄A氏のマンガでも似た話『ヒゲ男』があったなあと思い出しました■来訪者 主人公が病院で出産した際に、病院に勤務する派遣スタッフの女性にお世話になり、退院後もその女性がなぜか自宅まで付きまとってくる謎。 これも不気味な答えが見えてくる流れが怖い■サン・ジェルマン伯爵考 ある指定された日に某ホテルのロビーでサンジェルマン伯爵と会うようにと、亡くなった父親からの遺言に従い、半信半疑に会いに行く主人公。 ファンタジーチックな楽しいお話でした。(サン・ジェルマン伯爵がどんな人なのか、その説明部分が物語の面白い核心部分ですので、ご興味ある方はWikiを見ずに本書を読まれることをお勧めします)■縄 ある作家が締め切りに間に合わず、編集者あてに言い訳の文章を書き始め、やがて昔に体験した不思議な出来事も記述し始めるうちに・・ こちらも似た話で清水義範『深夜の弁明』を思い出しました***阿刀田氏の本は『楽しい古事記』『コーランを知っていますか』『シェークスピアを楽しむために』などを読み、博覧強記の方と認識してましたが、ミステリーやホラー、ファンタジー、SFチックなものまで幅広く書かれる方だったんだなとようやく知ることができてよかったです