アノキシア
基本的に、海は表面ほど水温が高く、深くなるほど水温が低くなります。そして、海水は水温が低いほど比重が大きくなります。したがって、海は「深いところに重い水が溜まりその上に軽い水が浮いているという」構造をしていて、外部からの力が加わらない限り海水が鉛直方向に混合することがほとんどなくなってしまいます。この状態を「成層している」と言います。
しかし、成層状態がずっと継続すると、海の深くに生息している生物は困ってしまいます。海の深いところには光合成可能な生物はいないので、海水の混合が起こらないと海面付近から酸素が届かず、酸欠(アノキシア) になってしまいます。何らかの力で鉛直方向にも海水が混合してくれないと、生きていけないのです。
何らかの力とは、海流や塩分濃度の違いなどが重要ですが、季節変化も重要です。冬になると表層の水温も下がってきて重くなるため、成層状態が不安定になり、鉛直混合が起きやすくなるのです。
図1:海水は冬場には混合しやすいことを示す図。気象庁HP より。
この現象は、閉鎖された水域で顕著です。もっとも有名な例は琵琶湖でしょう。
琵琶湖は海流などない(非常に弱い)ですし、海に比べると浅いので水温の季節変動も大きいため、季節変動による鉛直循環の変化が非常に顕著です。夏になると成層し、冬になると鉛直混合が起きるというサイクルが非常にはっきりしているのです。
図2:琵琶湖の鉛直方向の水温分布。11月にはまだ成層が見られ、水深20m付近を境に水温が極端に違っている(水温躍層)。それが1月になると、水温躍層が解消され水温がほぼ均一になっており、湖水が鉛直方向に混合していることが分かる。滋賀県水産試験場だよりより。
http://www.pref.shiga.jp/g/suisan-s/suisansikenjyoudayori/files/3gou.pdf
近年、地球温暖化に伴いこの鉛直混合が鈍化しているのではないか?という報告 がなされています。冬、あまり冷え込まなくなってきたため湖面の水温が低下せず、水温躍層が解消されにくくなり、深層への酸素供給も鈍化しているのではないか、というのです。
まだはっきりとは分かっていないようですが、琵琶湖底層の溶存酸素量が低下している のは事実であり、生態系に多大な影響を与えるのではないか?と危惧されています。
参照:http://www.pref.shiga.jp/g/suisan-s/suisansikenjyoudayori/files/2gou.pdf
さて、これと似た現象が日本海でも起きつつあるのではないか、というニュースが流れました。
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/09/14/20100914ddm041040086000c.html
参考:http://www.nies.go.jp/kanko/news/26/26-4/26-4-03.html
日本海は、琵琶湖ほどではないにしろ閉鎖的な海であり、海流などの影響は外洋に比べ小さく、気候変動の影響を受けやすいといえるでしょう。日本海の深層水は溶存酸素が低下しつつあるとの報告がされています。
図3:日本海深層水の溶存酸素量の推移。琵琶湖同様、各調査地点で、溶存酸素量が低下していることが分かる。気象庁HP
より。(注:日本海は琵琶湖より遥かに大きく海流などの影響もあるため、季節変動のような細かい変化ではなく地球温暖化のような長いスパンの影響が現れる)
気温上昇→表層水の水温上昇→溶存酸素量低下(水温が高いと酸素は水に溶けにくくなる)および鉛直循環の弱体化→深層水が酸欠状態に、という現象が起きつつあるというのです。
日本海は豊かな生態系の海です。その生態系は深刻な影響を受けます。身近な話をすれば、日本海は水産資源の宝庫であり、水産業や私たちの食卓は大打撃を受けるでしょう。わずか100年後には無酸素状態に陥るというのは想像以上に深刻な予測と言えそうです。
近況
GC/MS分析試料が200点ほどたまっています。今ほどオートサンプラーが欲しいと思ったことはありません。
さて、愛知とは縁もゆかりも無い、むしろ愛媛県と愛知県を勘違いした話があって困るんだ(愛大(あいだい)、と言えば愛媛大であって愛知大ではない!など)という私ですが、なぜか昔から中日ドラゴンズが好きです。ファンというほどでもありませんが。
子供の頃から青が好きだったからかな?中日のユニフォームは青いし。でもそれなら西武や(当時)大洋でもよさそなものだし。よく分かりません。
先週の山本昌投手の最年長完封はうれしかったですねえ。自分が小学生の頃にはもうプロで投げていた投手が、この年になってまだ最前線で活躍しているのですよ。すごい。
そんなどうでもいい話でした。さ、明日からまた実験がんばろう。
東京
分析展 in 幕張メッセ。数年に一度は行っておかないと、最新の分析機器にはついていけないんですよね。
今回一番驚いたのは、「真空にしなくても観察できる電子顕微鏡 」。話だけは聞いていましたが、すごいですねえ。
一日では、とても回りきれませんでした。
暑いですなあ
9月に入ったというのに暑いです。愛媛では、9月に入ったにもかかわらず観測史上最高気温を更新した地点があったりします(四国中央、37.2℃)。
この夏の異常さを気象庁 がまとめています。
図1:日本の8月の平均気温の推移。2010年は+2.25℃で従来の平均気温の最高値(1994年、+1.87℃)を大幅に更新した。
図2:6~8月の日本の平均気温の推移。今年の夏の平均気温は+1.64℃で、こちらも従来の平均気温の最高値(+1.36℃)を大幅に更新した。
9月に入ってもあと10日くらいは異常な猛暑が続きそうです。お気をつけください。
この暑さの中、東京出張に行ってきます・・・。